【小泉武夫の冒険食】は小泉武夫先生が東京農業大学教授時代に体を張って各地の食文化を研究した記録です。
貴重なタンパク源
日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、蛇はカエルなどと同じく貴重なタンパク源として重宝されてきたため、決して「ゲテモノ食い」とか「奇食珍食の世界」などという見方をしてはいけない。蛇は全身これ筋肉であるため、味が濃い割には特有の上品な甘味があり、それはそれで結構な味である。しかも、蛇は単なるタンパク源にとどまらず、強壮にも良いという。
ベトナムの南の方にいけば気候も暖かくなり、蛇が生息しやすい。さらにそこでは稲作が盛んで、そこにカエルやネズミが群れると、それらを狙って蛇もまた多数生息することになる。そのため、そういう地方の市場にいけば、下の写真のような蛇の串焼きなどが売られている。
ベトナムで売られる蛇の串刺し
これは食欲をそそるように竹串にうねり打ちして調味ダレで焼いたもので、ギンナンの実のように透明で光沢を放つ卵までつけられていた。
効く効く毒蛇の丸焼き
カンボジアでは、蛇は生のものを焼いて食べるのが普通だが、乾燥させて薬用としていただくこともある。皮を剥いでクルクルと丸め、天日干しにしたものだが、これを病人や精力の落ちた人が3日くらいで1匹丸々服用すれば、病気は治り、精力もつくというのである。
屋台などで売られている蛇には、猛毒を持ったものが多い。アマガサヘビといったか、噛まれたら百歩も歩かないうちに死んでしまうというので「百歩蛇(ひゃっぽだ)」ともいうそうだが、実はこういう毒蛇は美味しいのだという。
「効く効く毒蛇の丸焼き」といったものも売られており、これは皮を剥がさずにタレに漬けたまま焙ったものだ。ずっしりと重く、焼かれて破けた表皮の下に、むっちりとした肉身が見える。この照り焼風焙り蛇も、香ばしい味と香りがして、大層美味しかった。
照り焼風焙り蛇
〔参考:『冒険する舌−快食紀行秘蔵写真集』(小泉武夫、集英社インターナショナル)、『絶倫食』(小泉武夫、新潮社)、『食のワンダーランド』(小泉武夫、日本経済新聞社)〕