
いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。
これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。
湯葉には長い伝統がある
中国から伝来した湯葉は、鎌倉時代に禅僧がわが国に製法を伝えたといわれ、すでに日本で一二〇〇年もの歴史を持つ食品です。豆乳を平らな鍋に入れ、ニガリなどの凝固剤を加えずにそのまま煮ると、タンパク質が薄い膜になって表面に張るので、これを棒ですくい取ったものが湯葉です。
名称の由来は、豆腐の上に浮かぶ皮の「浮皮」が濁(にご)って「うば」から「ゆば」になったとする説と、豆腐の上物を略して「豆腐のうわ」が「うわ」から「ゆば」へと変化したという説などがあります。
非常食としての湯葉の注意点は?
豆乳から採取した湯葉のうち、そのまま水気を切ったものが「生ゆば」、乾燥させたものが「干し湯葉」です。どちらもタンパク質、脂質、ミネラルを豊富に含むので、昔からの滋養食品ではありますが、非常食や救荒食(きゅうこうしょく)としてふさわしいのは「干し湯葉」のほうでしょう。栄養価が高い上に軽くて持ち運びがしやすく、被災者の滋養強壮にももってこいです。ただし干し湯葉は乾燥させているので日保ち(ひもち)しますが、脂質が多いために酸化には注意が必要です。缶などに入れて、脱酸素剤(市販されている)を入れて置いておきましょう。
食べ方は、通常の場合だと精進料理の材料として煮物や椀種(わんだね)になり、油で揚げて酒の肴(つまみ)になります。非常食として用いる場合は、高野豆腐と同じように出汁で戻して食べると良いでしょう。病み上がりの人、食欲のない人や寝たきりのお年寄りにも滋養を付けてもらえるので、災害時にあるととても便利な一品といえます。
小泉武夫