賢者が選ぶ非常食(8)ドライフルーツ【小泉武夫・賢者の非常食(75)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.01.28

 いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。

 これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。

 

 杏は登山家の必需品

 乾燥させて保存食にするのは、乾燥芋や切干大根のような野菜類だけではありません。果物を乾燥させて保存食にする方法が、日本では古くから行われていました。

 梅の果実を干す、いわゆる「梅干」は別格の存在ですが、梅の実と同じくらい大切にされてきたのが杏(あんず)です。

 杏はもともと、杏仁(あんにん)と呼ばれる種(たね)のなかの部分のみが使用されていて、残った実の部分は捨てて腐(くさ)らせていました。しかし江戸後期に「杏干(あんずぼし)」として発売されるようになると次第に杏の価値が高まり、盛んに生産されるようになりました。

 杏は酸味が強いため生食よりも砂糖漬(づ)けなどに加工されることが多く、干し杏もよく作られました。昔の田舎にはどの家にも杏の樹があり、黄色い大きな実を生(な)らせていたものです。杏の樹は私の実家にもあり、実が生ると摘み取って、救荒食として保存するために塩漬けにしていました。

 杏はβ(ベータ)カロチンが多い果物ですが、生よりも干し杏にしたほうがβカロチンの含有量がはるかに増えるのです。βカロチンは体内でビタミンAとなって抗酸化作用を発揮し、老化防止や高血圧予防、視力の保持に役立ちます。また、リンゴ酸やクエン酸などの成分が疲労回復、冷え症の改善、咳止めなどに効果的で、現在では登山家の必需品ともいわれるほど、回復力がある食品です。

 

 オススメのドライフルーツは?

 リンゴも江戸時代から長野県で生産され、生食以外の分は乾燥リンゴにされていました。薄切りのチップにして天日に干し、保存食にするのです。また、無花果(いちじく)も天日で乾燥させると、素晴らしい保存食になります。

 果物の多くは日保ちがしないので、冷蔵庫もなく輸送手段もない昔は、大量に採れるととりあえず乾燥させるのが一般的でした。これらは、冬を乗り越えるための保存食であると同時に、災害で孤立したり避難したときの非常食だったのです。

 現在では、さまざまなドライフルーツが入手できるので、自分で乾燥果実を作る手間はなくなりました。非常食として確保しておきたい果物の種類も、多すぎるので目移りして困るくらいです。日本古来の乾燥果実以外でお勧めしたいドライフルーツの第一は干ブドウ(レーズン)になります。

 レーズンは、格別に栄養価が高い乾燥果実です。ブドウ糖は医療にも使われていますが、レーズンはブドウ糖が八割を占めるほど濃密な糖質があり、体に入ると高いカロリーを出して燃焼します。また、カリウム、カルシウム、ポリフェノール、食物繊維なども豊富に含むパワフル食品です。密閉されているレーズンの賞味期限を確認し、封を切らずに非常食としてストックしてください。水と片手にのるくらいの量のレーズンがあれば、究極の一日を乗り切ることができます。

小泉武夫

 

 

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編集部
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