日本人が失ってきたもの【小泉武夫・賢者の非常食(46)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2019.01.28

昔は食べものの売り買いに会話があった

 昔の日本人は、食べものは、必ず会話の中で選ばれ、買われていました。隣の八百屋のおばちゃんのところへ行くと、「これねえ、ター坊(私は小さい頃、ター坊と呼ばれていました)、まくわ瓜を三つセットで売ってるんだけど、今日はひとつおまけしてやっからね。このまくわ瓜、叩くといい音がするんだよ。コンコンって。この音が、よく熟れている証拠なんだよ。こっちの音は、まだなのさ」といいながら、叩き比べてくれたものです。

 魚の売り方もそうでした。向かいの魚屋のおっちゃんが、「新鮮な魚ってのは、眼を見ろ。ほれ、こんなに澄んでいるから。眼に血が一滴でも入ってたら活きが悪いんだからな、サバは新鮮じゃないといけねえ」なんて能書きをいいながら売っていました。みんなそこで生活の知恵を身に付けていたものです。

 食べものの売り買いは、そんな具合に会話で成り立っていました。今、そんな会話は地方に行ってもほとんどないわけです。驚いたことに、青森県の津軽半島の突端にあるスーパーに、漁師のお嫁さんたちが魚を買いに行くという時代になりました。こんな不思議な現象が、日本中で起こっているのです。

小泉武夫

 

 

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編集部
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