渡邊敦光教授は、長年にわたって広島大学で放射線障害に対する味噌の防御(ぼうぎょ)作用を研究してこられた先生です。特に、動物実験によって効果の有無を明らかにする病理的アプローチで名高く、この分野の世界的な権威といえます。その渡邊教授の論文によると、放射線が人体に影響を及ぼしてがんを発生させる障害作用と味噌とは、次のような関係があると考えています。
動物実験で証明された味噌の力
原爆症という病気は、被爆後約1ヵ月の間に下痢(げり)や血便、歯ぐきからの出血、白髪化、脱毛などの症状が現れて死に至るもので、別名「急性放射線障害」と呼ばれますが、動物実験で調べると大きく3つの時期に分かれます。
マウスに200グレイ(グレイは吸収される放射線量の単位)もの大量の放射線を浴びせると、約1日ですべてのマウスが死にます。これが「中枢神経死(ちゅうすうしんけいし)」です。
マウスに10グレイ(胃のX線検査の数千から数万倍)の放射線を浴びせると、2週間以内に消化管の壊死(えし)が起こって下痢や血便を生じて死に至ります。これが「消化管死(しょうかかんし)」です。
マウスにさらに少ない線量の放射線を浴びせると、2〜4週間目に骨髄に異変を生じて免疫作用を持つ白血球の生成が妨げられ、その結果感染症などを起こして死亡します。これが「骨髄死(こつずいし)」です。
渡邊教授らは「消化管死」に注目し、放射線に被曝した消化管の修復に味噌の摂取が役立つかどうかを、マウスを使って実験しました。社団法人中央味噌研究所から提供を受けた乾燥味噌をマウスの餌に混ぜて、さまざまな実験を行ったそうです。その結果、内部被曝、外部被曝ともに、味噌には放射線への防御効果があることが確認されました。
小泉武夫