いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。
これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。
日本でも江戸時代から親しまれてきたパン
パンと聞くと西洋の食品だと感じるので、日本での歴史はまだまだ浅いと思われるのではないでしょうか。しかし意外にも日本人とパンの歴史は長く、日本人が初めてパンを知ったのは室町時代だといわれています。しかし「パン」という名称で文献に登場したのはもっとずっとあとの江戸時代に入ってからのことで、正徳(しょうとく)二(一七一二)年の書物『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』です。しかもここで登場しているのは中国からの影響を大きく受けた蒸しパンのようなものでした。
ところが、それから六年後の享保(きょうほう)三(一七一八)年に出された『古今名物御前菓子秘伝抄(ごぜんかしひでんしょう)には、日本風にアレンジされたヨーロッパ系の発酵パンの記述が見られます。かなり具体的な記述があるので、江戸時代にはすでに一部ではヨーロッパ系のパンが焼かれていたと考えられます。
お米よりも栄養価が高い!?
さて、発酵食品の中でもパンはとても大切なものです。発酵させずに焼いたパンと発酵せて焼いたパンとでは、焼き上がったパンの持つ香気(こうき)が七倍も違うという研究報告があります。また、発酵させるとパン生地の中に気泡が含まれるので、特有の舌ざわりや歯ごたえが生まれ、食欲が高まるのです。
一般的な食パンの栄養成分は、炭水化物(デンプンを主体とする糖質、繊維質も少し含む)四八%、タンパク質八・四%、脂質三・八%、水分三八%程度となります。米飯と比べて特長的なのはミネラルの量で、食パン一〇〇gあたりカルシウム四〇mg(精白米二mg:以下同じ)、リン七五mg(三〇mg)、鉄一mg(〇・一mg)、ナトリウム五二〇mg(二mg)、カリウム一〇〇(三〇mg)と圧倒的に食パンのミネラルが豊富です。(つづく)
小泉武夫