賢者が選ぶ非常食(7)切干大根【小泉武夫・賢者の非常食(74)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.01.26

 いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。

 これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。

 

 切干大根の起源は?

 切干大根がいつから食べられるようになったのか、その詳細は不明です。しかし大根が日本に伝わってきたのは稲作文化と同じころなので、切干大根もそれとほぼ同時期に始まったのではないかと考えられています。つまりこの切干大根も大変長い間、日本人に親しまれてきた貴重な保存食なのです。

 江戸時代になると大根の栽培は飢餓(きが)対策として奨励され、その頃に漬け物にしたり、切干大根などにして保存することが盛んになったといわれています。

 ちなみに「切干大根」というのは主に関東地方での呼び名で、関西より西の方では「千切大根」と呼ばれることが多いようです。また、それ以外にも「干し大根」と呼ばれることもあります。  

 

 乾燥させることで栄養価が増す   

 生の大根は、あまり栄養がありません。水分が約九四%、糖質が三%前後で、繊維と消化を良くする酵素がある以外は、栄養成分として顧(かえり)みられることのない野菜です。それが、切って干しただけで豊富な栄養成分を含むようになります。まるで手品のような話ですが、そこには種も仕掛けもありません。

 切干大根は、水分が一五〜一六%に減る一方で糖質が六〇〜七〇%に増え、カルシウムやカリウムなどのミネラルがぐんと増えます。また、ビタミン類も豊かになります。

 生の大根は非常食には適しませんが、切干大根は保存が効いて携帯に便利なのでとても非常食向きです。乾燥させることによって微生物の増殖が抑えられるので保存性も高まり、非常時に不足しがちな繊維野菜として貴重な役割を果たします。

 

 便利な乾燥野菜たち

 切干大根のメリットは、あり合わせの具材と煮込むだけで、さまざまな料理ができることです。ひたひたになるくらいの出汁で煮て、醤油、塩、酒などで味を付ければ、おいしく健康的な和風総菜になるのですから、野外料理にも向いています。もし、調理環境が整っていれば、三杯酢に漬けた「はりはり漬け」、さっと茹(ゆ)でた「木の芽の味噌和(あ)え」などがお勧めです。

 切千大根以外にも、日本には乾燥野菜がいろいろあります。代表的なものは、夕顔の果肉を薄く長く切って乾燥させた「干瓢(かんぴょう)」、サトイモの茎(くき)を乾燥させた「イモガラ」 (関東では干しずいき、 関西では割菜とも呼びます)です。このような切り干し野菜には、動脈硬化の予防や利尿作用があり、いずれも非常食に適しています。

小泉武夫

 

 

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編集部
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