発酵のしくみ
発酵食品の話をします。
発酵というのは、酵母や細菌などの微生物が、原料の糖類などに作用してうま味や匂い、栄養素などを生む現象です。発酵食品には、酢、味噌、醤油、日本の漬け物やキムチ、納豆、鰹節、ヨーグルト、チーズ、パンなどがあり、またビールやウィスキー、日本酒や焼酎などの酒類、ウーロン茶などの発酵茶ほかさまざまな食品があります。それらは保存性と栄養価に優れ、非常食として欠かせないものばかりです。
ここでは、日本を代表するいくつかの発酵食品だけに絞りましょう。まず取り上げたいのは甘酒です。
甘酒には点滴と同じ効果
甘酒こそ、最大の救荒食品であると断言できます。この甘酒くらい作りやすく、栄養価が高く、人の命を救う力がある飲み物は、ほかに類を見ません。甘酒の本当の姿を知ると、みなさんは発酵の力の偉大さに驚くことでしょう。
甘酒は、米を蒸して、それに麹カビを加え、でき上がった米麹に炊いたご飯を加えます。これにお湯を足し、暖かいところに一夜寝かせるとでき上がります。酵母は使っていない ので、「酒」という字が付いていますが、アルコールは一切含みません。ですから本物の甘酒は、赤ちゃんでも飲めることをまず理解しておいてください。
甘酒の成分は、20%ほどがブドウ糖です。また、原料である米のタンパク質が麹菌の持つ酵素の働きで必須アミノ酸に換えられるため、山のように必須アミノ酸を含んでいます。さらに、ビタミン類が多く、ビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、ビオチンなどのビタミン類が非常に多く含まれています。
これは、言い換えれば甘酒はブドウ糖の溶液であり、必須アミノ酸の強化液であり、総合ビタミンドリンクであるということです。つまり、現代の医学でいえば点滴と同じなのです。このことから、私は江戸時代の甘酒の驚くべき役割に気づきました。
小泉武夫