万能薬、梅干し
梅干の効果を体験的に知っていた日本人は、梅干の使い方が上手でした。疲れたら元気 回復にと食べ、風邪をひいたらお湯に溶いて飲み、子どもが食あたりを起こしたら下痢止 めに飲ませ、夏負けの防止にしゃぶり、つわりで食欲をなくした妊婦に与え、頭痛のときはこめかみに梅肉を張り付けました。
こうした万能薬であった梅干がいちばん似合ったのは、おむすびのなかに入れられたと きかもしれません。携帯される弁当としてのおむすびには、おかずとしても腐敗防止のた めにも、梅干が欠かせない具材でした。
これからも日本を救う梅干し
梅干にある薬効は、梅から溶け出してくる有機酸だけではありません。種や紫蘇(しそ)の葉から溶け出す薬効もまた、鎮咳(ちんがい)、解熱(げねつ)、利尿(りにょう)、健胃(けんい)、発汗(はっかん)、精神安定と多彩です。単に梅を塩漬けにしただけではなく、紫蘇を加えて美しく着色しながら、紫蘇の薬効成分にも期待したところに日本人の知恵がありました。
梅干の都合のいいところは、何といっても長期間保存がきくところです。いつ、どんなときでも梅干さえあればご飯の二杯は食べられますから、長い歴史の中で救荒食品として重宝され、有事の際に日本人を守ってきました。梅干は、これから先も日本人の非常食の中心として、欠かせない食品です。
小泉武夫