東日本大震災で学ぶべきこと
2011年、日本人の食をも揺るがす大災害が起こりました。東日本大震災です。
この未曾有の大震災によって、これまで豊かな食べ物を提供してくれた東北地方太平洋側の生産地が壊滅的な被害を受けました。テレビや新聞などで報じられている通り、被災地では今でも過酷な状況が続いています。
今回の大震災とそれに伴う大津波は、我々に多くの教訓を残しました。その大部分は、日本人の危機管理の甘さについての教訓でしたが、食べものについても同じことがいえます。自分たちが万一こうした大災害に遭ったとき、家庭レベルでどのくらいの備えをしておけば生き延びることができるのだろうか、と多くの人がテレビの報道を見ながら考えたのではないでしょうか。
その考えが、首都圏におけるスーパーやコンビニでの買い占めの原因になったとすれば、それは大きな間違いだといわざるを得ません。大切なことは、私たちがどのような食べものを日頃から食べ、貯蔵し、持ち出せばいいかについての正しい知識を持つことです。いつでも売っているものをとりあえず買い占めたとしても、何の意味もありません。食べれば元気になり、かさばらず、日持ちがする食品を日本人は古代から連綿(れんめん)と受け継いできたのですから、その知恵を使わない手はないでしょう。ところが、非常時に何を準備して何を食べればいいかという大切なことを書いた本がほとんどないのです。
日常生活でも役立つ1冊に
私はこれまで「食文化」を研究してきた1人として、東日本大震災を機に、災害を生き抜く究極の食べものとは何かを書き残しておく必要を強く感じました。そこで、急遽『賢者の非常食』(IDP出版)を書き下ろした次第です。今後も東海、関東、南海沖の海底プレートはいつ地滑りを起こすか予断を許しません。もし、東京、横浜、名古屋、大阪などの大都市を大きな地震や津波が襲ったら、救助の手が届くまでには何日もかかることでしょう。『賢者の非常食』には、そんな場合に役立つ常食・非常食の知恵をぎっしりと詰めました。
非常時に役立つ食べものは、日常生活でも元気の源となる食べものです。日頃から正しい食生活を送ることによってのみ、いつでも持ち出せる食べものを常備し、万一に備えることが可能になります。そうした意味で、この本を家庭に1冊置き、食の大切さに気づいたときに読み返してみると良いでしょう。昔の日本の家庭に必ずあった「赤本」のように、日頃から何度も読み返して、手垢(てあか)がつくほどお使いいただければ、本書の役割は十分に果たせるものと思います。
小泉武夫