庶民のスタミナ回復に貢献
一計を案じた私は、夏休みに全国に帰省する学生たちに宿題を出して、実家の近くのお墓に行って、江戸時代の墓石の文字を書き写してくるようにいいました。つまり、江戸時代の死者の没日がこれによってわかるからです。その結果、当時の死者は7月から9月までの夏場に集中していることがわかったのです。冬の寒さは火に当たってしのげても、老人や病人にとって夏の暑さを乗り越えることは大変厳しいことだったのでしょう。そんなときに売りに来る甘酒の1杯は、病人に点滴を打つくらい効果のあるカンフル剤となって、スタミナ回復に役立ったと思われます。
金持ちなら栄養の誉れ高いウナギを食べたかもしれませんが、庶民はそうはいきません。そんなときに町中で甘酒を売り歩く人がいて、それが1杯4文(当時は、酒が1升で180~250文でした)という格安の値段で飲めたのですから、庶民は飛びついたに違いありません。こうして夏場を乗り切るスタミナドリンクとしての甘酒が生活に浸透し、甘酒売りは夏の季語に変わったのではないでしょうか。
このように、どの時代でも庶民は、常に生きるための工夫をしていました。そうした知恵が、救荒食品につながっていきます。震災大国で生きる私たちにとっても、甘酒は欠かすことのできない非常食となることでしょう。
小泉武夫