納豆はいつまで食べられる?
一般的な糸引き納豆を非常食にする場合は、どのくらい日保ちがするかという問題があります。賞味期限などというものを無視して考えると、すでに納豆菌によって発酵している糸引き納豆は、別な腐敗菌によって腐ることはめったにないのです。そのため、日が経つとやや干からびてアンモニアが発生しますが、それは腐敗菌ではありません。食べても問題はないので、私はアンモニア臭がしても食べています。
しかし、味覚的には厳しい状態になりますから無理はしないでください。それよりも、長期保存には乾燥納豆を作ることです。手間をかけたくないという人は、デバートの自然食品売り場などで売っている乾燥納豆を家庭用の非常食にしてください。
納豆が命の救世主になるワケ
ついでに申しますと、私が海外旅行に乾燥納豆を大量に持参するのは、食中毒の防止用に納豆を用いているからです。私は旅先で「これは食中毒になりそうなものを食べてしまったな」と思ったら、旅行カバンから乾燥納豆を取り出して、 水と一緒に大量に飲むことにしています。納豆には強力な消化酵素が含まれており、おかげでこれまで命の危険から何度も救われました。
最大のピンチに襲われたのは二〇〇一年八月、カンボジアの山奥に住んでいる「高地クメール族」の食文化を研究に行ったときです。村人たちが歓迎してくれて、豚の肉や内臓を使った熟鮨(なれずし)をごちそうしてくれました。喜んでパクパク食べたところ、翌日の朝から私を除く六人の隊員は猛烈な下痢に襲われたのです。幸い、持参していた抗生物質によって二日後には治りましたが、死の淵をさまよったといっても過言ではないほどひどい食中毒症状を起こした人もいました。ところが不思議なことに、私だけは何ともなかったのです。これは、納豆菌は敗菌や食中毒に対して非常に強いためで、それらの悪い菌を腸内で攻撃、死滅させてしまうからです。
このときも私は、持参している乾燥納豆を食べていました。習慣となっている納豆摂取が、私だけ食あたりしなかった理由であることは間違いないでしょう。日本にいても、究極のサバイバル状況に陥ると、 水も食べものも清潔とはいかず危険が伴います。ちょっと腐りかかったものを食べてしまったときは、その場ですぐに納豆を食べてください。
以前、私は腸管出血性大腸菌O-157と納豆菌とをシャーレの中で戦わせる実験をしたことがありますが、納豆菌の完全な勝利でした。お弁当屋さんからO-157が蔓延(まんえん)して、不幸にも幼稚園児が亡くなった事件がありましたが、そのとき同じお弁当を取っていたお寺では、子どもたちが一人も発症していませんでした。実はそこのお坊さんが大の納豆好きで、毎日子どもたちのお弁当に納豆を添えていたのです。このことがO-157から園児を救ったのではないかと思った人は少なくありませんでした。とにかく食中毒に対する納豆菌の強さがわかっていただけると思います。
日常でも非常時でも食べたい納豆
話が長くなりましたが、納豆には滋養がたっぷりあるのと同時に、優れた消化酵素が含まれています。亜鉛などのミネラルも豊富で、人の心を穏やかにします。
このように納豆は、いいことずくめです。日常の食生活に積極的に取り入れるのはもちろん、乾燥納豆をストックして、非常食としてもしっかり活用してください。
小泉武夫