チベットの首都ラサに足を踏み入れたことはあるだろうか。ダライ・ラマが暮らしていた真っ白なポタラ宮殿、青く澄み切った空、まるで富士山の上を歩いているかのような空気の薄い街、それがラサだ。まるで「天空の城ラピュタ」だが、街のあちこちには中国の赤い国旗が掲げられ、大通りの街灯は全て中国風の提燈が連なっている。
標高3700mの場所に建てられたポタラ宮殿
この街で暮らす人々はとても信心深く、我慢強い。チベット人たちは、老いも若きもポタラ宮殿の周り(総面積は41平方キロ)を五体投地(五体を地面に着けて伏せるようにして礼拝)しながら回る。宮殿のなかは、ヤクのバターの匂いで満ちている。バターで作ったろうそくに火をともすことが、敬虔な信仰のあかしだ。チベット人にとってのヤクは、単なる食用の存在ではない。彼らはヤクと共に暮らし、食べるためにつぶし、寺にヤクのバターを捧げ、一日に何度もバター茶を飲む。
あちこちで売られているヤクのバター
マニ車を回しながら祈る
五体投地で祈る人々
ヤクの骨でとったスープとヤクの肉が入った麺「トゥクパ」はチベットの代表的な食べ物だ。小麦粉を練ったうどんと全く変わらない麺だが、うどんよりもずっとこしが強い。スープはひじょうにうまみがあり、何の臭みもなくとてもおいしい。細かく刻んだねぎと、ヤクの干し肉が入っている。
朝ごはんとしてよく食べられている麺、トゥクパ
子どもも大人も食べに来る
ポタラ宮殿からの道を歩いていると、ヤクが一頭、歩道に立っていた。近くで用を済ませている主人を待っているのだろうか。近づくと、長いまつ毛に覆われた瞳はこちらと目が合うことをさけ、大きな蹄を持った脚を動かして後ずさりする。チベット人が愛する、静かな動物である。チベットは私たち旅人に とって、 温和でやさしい「純朴」の風で包んでくれる。
道で主人を待つヤク
取材・文/yoko