世界三大料理の一つと言われるトルコ料理。基本的には主食はパンだが、現地の飲食店に、お米を使った料理も見受けられる。そのお米を見ると、粒が長細くてパサパサ。いわゆる「インディカ米」だ。
ところが、イスタンブールの日本料理店では、「SUSHI」の文字。あのパサパサとしたお米でどうやって鮨を握るのか。トルコのSUSHIを食べ歩いてみた。イスタンブールでは、サバやスズキ、マグロなどが水揚げされ、シーフードも思っていた以上に豊富。
トルコのボスポラス海峡
イタリア産のお米を使っているという店のシャリは、米粒が日本米にそっくり。しかし、米肌の舌触りが悪く、少し喉につっかかった。
トルコ産のお米を使っているという別の店のシャリは、米粒が日本米よりも若干長め。柔らかく炊きすぎていて、米粒が潰れてしまっていた。
やはり、鮨は日本米にかぎる…と思いかけてきたとき、長細い米粒を使ったシャリに出会った。すし酢で米粒がしっとりしているとは言え、長細いお米で鮨が握れることにも驚く。食べてみると、パサつきはなく、なめらかな舌触り。米粒が口の中ではらりとほどけていく。日本でも十分通用しそうなシャリだ。
つやっとして、なめらかな舌触り
長細い米粒のシャリ
店の板前によると、米国カリフォルニア州が、新潟県のコシヒカリの種籾(たねもみ)を仕入れてコシヒカリを栽培。そのカリフォルニア産コシヒカリの種籾を、イタリアで長粒種と交配させて、『イタニシキ』というお米が誕生。そして、イタニシキを再びカリフォルニア州が中粒種として品種改良、栽培したお米だという。
「イタ」はイタリアのイタ。一方で、コシヒカリがどうして「ニシキ」なのかという疑問が生まれるが、アメリカではコシヒカリが「錦」という商品名で販売されていることを考えると、「ニシキ」という名前が人気なのかもしれない。横浜市保土ケ谷区の米卸会社「千田みずほ」海外事業部長の隂山貞三さんによると、イタニシキはイタリアの短粒種で、欧州では鮨用の日本米として一番安価でそれなりの味なので、フードデリバリーやスーパー、回転鮨などで広く使われているという。
ところで、このシャリ。どう見ても長細い長粒種のお米だが、板前が「中粒種」と言っていたことが気になる。
そこで、東京・原宿の米店「小池精米店」三代目の小池理雄さんに尋ねた。
「『つや姫』も短粒種ですが、炊くと長細めの形になりますよね。もしかしたら、イスタンブールの鮨屋で扱っていた中粒種もそういう類の品種なのかもしれませんね」
オーストラリアの米販売会社の日本駐在代表を務めた経歴がある隂山さんによると、オーストラリアでは、タイやインドなどの典型的なインディカ長粒種に比較してパラパラし過ぎていないお米がつくられているそう。「ただ、日本米に比べたらパラパラですけどね」
長細めに炊きあがる中粒種。パラパラとしすぎない長粒種。長細いお米だからといって、鮨のシャリとして使えないとは限らない。もしかしたら、タイやインド、中東などで日本米が好まれる日もそう遠くはないかもしれない。お米の世界は多様化が進んでいる。
取材/文:柏木智帆