【小泉武夫の冒険食】虫を食う

カテゴリー:食情報 投稿日:2017.03.02

※【小泉武夫の冒険食】では小泉武夫先生が東京農業大学教授時代に体を張って各地の食文化を研究した貴重な記録を連載(不定期)します。

 

虫を食べない民族はいない

 世界中で虫を食べない民族はいないに等しい。日本でさえ蜂の子や、イナゴなどの虫は有名である。虫は捕獲が容易であり、地球上のいたるところに生息しているため、昔から人間の大切な食べ物とされてきた。また、虫は滋養成分が多く、高タンパク(牛肉と同程度)、高ミネラル(無機質)で、さらにはビタミンも他の食材に比べて圧倒的に多い。古代人の糞石には普遍的に虫が含まれているとの研究もあり、虫が人類史上も大切な食べ物であったことをうかがわせる。

 カンボジアではクモ、コウロギ、ゲンゴロウ、タガメ、蜂の子などの虫を食べた。中でもタガメは、「タガメ醤油」の原料となるが、虫のままでも実にうまかった。タガメの醤油に残る特有の芳香(梨の花の匂いを強くしたような香り)は一度知ってしまうとたちまち虜になってしまうので、一種「魔性の匂い」だと思った。

蜂の子の幼虫と羽蟻の幼虫のミックス

 

巨大タガメを炒り上げたもの

 

 カンボジアの北東部、高地クメール族の村で面白いものが見られた。村のおばちゃんが突然走り出し、飛んでいる虫を捕まえたのである。カミキリムシなのか、頭部に長い触角があり、カラフルな色とユニークな姿をしていた。それも食材として利用するのだという。大昔からきっと同じような形で虫を捕獲して食料にしていたのであろう。そこには悠久にして貪欲さを秘めた、大全たる食餌の知恵が息づいているように感じた。

 

食文化を駆逐する「魔法の粉」

 また、同じ村では蟻食いも見た。2mほどの木の上に、アカアリの巣があった。葉を丸めるような形で作られているため、旅人のような素人にはなかなか見つけられないが、村を案内してくれたおじさんはすぐに見つけることができた。アカアリは大変獰猛(どうもう)なため、巣を攻撃してくる外的には命をかけて反撃してくる。しかし、おじさんは巣にそっと近づき、手で拍手のような形でバシッ!と手を打ってアカアリたちを一網打尽にしてしまった。中のアリたちは、潰れてしまったもの、気を失ったものなどがいて静かになった。おじさんはそのアリたちを木の臼(うす)に入れると、なんとなんと化学調味料の白い粉を混ぜて丸太棒で搗(つ)き潰した。そしてそれを平皿にいれて食べるのである。別のところでもアリを食べたことがあり、そちらは爽快な酸味と甘みがあり、とても印象深かったのだが、この村での食べ方には正直がっかりしてしまった。

 このような食生活をしている、カンボジアとベトナムの国境の少数民族の村でも化学調味料が使用されているとは思いも寄らず、心底驚いた。なんでも、この「魔法の粉」さえあれば他の味付けがいらなくなるから便利なのだとか。この魔法の粉以外の味付けはしないということになると、やはりこの民族にずっと伝わってきた知恵の調理法や味付けが失われてしまっているということになる。「食の文化」という観点からは、この魔法の粉はなんとも罪作りなことをしたものだと思う。

 最後に、タイの北部では「五本角カブトムシ」を食べた。串刺しにして素焼きにしたら、そのボリュームや野趣満点な味を楽しむことができ、なかなかうまかった。

五本角カブトムシ

 

参照:『冒険する舌―快食紀行秘蔵写真集』(小泉武夫、集英社インターナショナル)

 

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編集部
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