ヨルダンの主食は、ホブスという平たいパン。だが、「マクルーベ」や「ビリヤニ」といった米料理もポピュラーだ。
ヨルダン南部のアカバにあるレストランでビリヤニを注文したところ、出てきたのは、なんと赤いインディカ米。
ケチャップで味付けしたチキンライスのようにも見え、人参を千切りにしたキャロットラペのようにも見え、紅ショウガのようにも見える。サフランライスにしては、だいぶ赤すぎる。
天然色素で着色した「ビリヤニ」
調べてみると、ウコンをアルカリ熟成させた「クムクム」という天然色素だった。灰とミョウバンをまぶしたウコンを素焼きの壷に入れ、土の中に埋めて数十日熟成させて作るそう。インドなどでヒンドゥー教徒が眉間に赤い丸印を付けている、あの色素もクムクムなのだとか。
クムクム自体には、味も風味もない。なぜビリヤニを赤くするのか疑問に感じたが、日本の赤飯も海外の人からは「なぜごはんを赤くするのか」と思われているだろう。栗きんとんをクチナシで黄色にしたり、カマボコをコチニール色素でピンク色にしたり、ウインナーを着色料で赤色にしたりといった日本の食は、海外の人からみれば、きっと疑問がたくさんあるに違いない。
日本の赤飯が赤いのはハレの意味も込められているが、幼い頃から赤色の強い赤飯に慣れていると、ほんのりと色づいた赤飯よりも、しっかりと色づいた赤飯のほうが食欲を刺激するという人もいるだろう。同じように、ウコンを数十日にもわたる手間ひまをかけてビリヤニを赤くするのは、ヨルダンの人にとっては赤いビリヤニが食欲を刺激するからかもしれない。
それぞれの国や地域で継承されてきた日常食は、文化となって、それぞれ独自の感覚や感性をつくりあげている。
首都アンマンにあるスパイス店
アンマンのパン屋
ナッツなどを販売する屋台も
取材/文:柏木智帆