お米が違えば食べ方も違う
米の一大産地であるベトナム。南部のメコン川流域、北部の江河流域では、長細いインディカ米を中心に多くのお米がつくられている。肥沃(ひよく)な大地と豊富な水、温暖な気候に恵まれたベトナムでは、北部は年1、2回、南部は年3回も収穫できるという。
米国農務省公表データ(2014年)によると、ベトナムの生産量は2820万トン。日本は770万トンなので、その差は歴然。さらに、お米の国内消費量はベトナムの2150万トンに対して、日本は820万トン。ベトナムはまさしく“お米大国”と言える。
こうしたデータを見ると、「フォー」や「ミー」、「ブン」「カオ」と呼ばれるさまざまな米麺や、「コム・チン・トム(パイナップルの皮の中に入れたフルーティーなごはん)」、「コム・ガー(鶏ガラスープで炊き上げたごはん)」など、お米料理が多いことも頷ける。
そこで、ベトナム最大の商業都市・ホーチミン市でベトナム米を食べ歩いてみた。
ベトナム米は、短めの長粒種が一般的。炊くとほんのりと茹でた枝豆のような香りがする。ベトナム料理店で出てきたごはんは、ツヤがなく、粒に張りがなく、舌触りが滑らかでない。ぱらぱら、ぼそぼそしていて、白ごはんだけでは食べる気になれない。
ぱらぱら、ぼそぼそのベトナム米
おかずは、鯖とパイナップルを甘辛く煮た料理を注文したが、パサパサのごはんがおかずを受け止めきれず、食べにくく残念でならない。
鯖の甘辛煮。まるで酢豚のよう
そこで、「ブン」と呼ばれる米麺を、ヌックマム(魚醤)が入った甘辛いタレにつけてごはんの上に乗せ、ラーメンライスならぬ“ブンライス”に。すると、汁気のあるブンとパサパサのごはんとの相性が抜群に合うことに気づいた。ベトナム米は汁気のあるおかずと食べると、おいしさを発揮するようだ。
ブン
注文した鯖の甘辛煮は味が非常に濃いため、できる限り汁気をきって食べていたが、それがベトナム米にはマイナスだった。ベトナムでは味の濃いおかずでごはんを数杯食べるのが当たり前で、煮込みの汁も一緒に食べたほうが実はベトナム米がおいしく食べられるのだ。
ベトナム米は炒飯がオススメ
ごはんがパラパラなので、「コム・チン・タップ・カム」(五目炒飯)にも適している。炒めることで米粒に張りが出て、一粒一粒をしっかりと感じられる。お米と具材と調味料が均一に絡み、さらりとお腹におさまっていく。ベトナム米は、ベトナム料理のおかずや調理法が間違いなく合っている。
海老炒飯
最近、日本では、ごはんをおかわりする人がそう多くない。一方で、ベトナム人は女性でもおかわりすることが普通だそうだ。だからこそ、口当りが軽いお米を好むのかもしれない。ベトナム人が日本米を食べると、「重い」と感じるという。
軽やかな口当りのベトナム米を、さらに軽やかにしたのは「コムタム」という「砕きごはん」。日本では「くず米」として、一般的に食用には使われていない。だが、ベトナムでは、炊いたコムタムの上に惣菜をのせて、タレの染み込んだところをかきこんで食べている。
取材/文:柏木智帆