【歴メシを愉しむ(173)】甘い甘い とっておきの渋柿

カテゴリー:食情報 投稿日:2025.11.11

俊足で通り過ぎていった秋ではあるが、秋を感じる食べものは、まだ我々を楽しませてくれており、中でもここ2~3週間はしみじみと柿を味わう日々を送っている。

猟師の私は年中 有害鳥獣の捕獲をしており、猪罠の見回り先である農園には、十数本の大きな柿の木があり、今年は大豊作。花咲か爺さんならぬ柿実らせ爺さんが、柿が育つ灰(?)を振りかけたのではないか?というぐらい、鈴なりで柿が実っており、「毎日ご苦労さま」と、いつも柿をどっさりいただいている。

柿には甘柿と渋柿があり、主に温暖な地方では甘柿、寒い地方では渋柿が育つとされているが、この農園では両方が採れる。熟した甘柿は当然 甘くて美味しいが、ここでは渋柿の方が格段に美味しいのだ。もちろん、農園の方が手間ひまをかけて渋抜きをされて、深い甘みを引き出した渋柿のことだが。

 

毎晩のお愉しみ 「おつまみ渋柿」

私が「おつまみ渋柿」と呼んでいるこの柿は、干柿スタイルではなく、渋抜きをして少し寝かせたタイプである。

その方法を教えてもらうと、収穫した渋柿のヘタの先端部分に焼酎をハケでチョンと塗り、藁を敷いた木箱に並べ、それを二重にしたビニール袋で包み、袋の口をしっかりと輪ゴムで留めて、倉庫に2週間ほど寝かせておいたら出来上がるという。

ひと口食べると、口中で果肉がトロ~リとろけて、じっくりと深い甘みが広がるという、感動の美味である。

そのままでももちろん美味しいが、冷蔵庫でよ~く冷やして、ヘタの部分を取り去り、果肉をスプーンで食べるのがさらに旨い。これをウイスキーのおつまみにすると最高で、杯を重ねてしまうのだ。バニラアイスにのせても、バゲットにのせても良しで、朝食、おやつ、デザートなど出番は多く、無くなるのが惜しい、惜しいと言いながら、毎日おつまみ渋柿を味わっている。

 

奥が深い渋柿

渋みを抜いた渋柿は、甘柿が水くさく感じてしまうほど甘みが深くて美味しい。それはなぜだろうと調べてみると、渋柿の渋みの元がタンニンで、このタンニン細胞の内容物は水に溶けやすいので、果肉が切られたり、噛まれたりすると、細胞が砕けて渋さを感じるのだとか。このタンニンを脱渋するには、焼酎などによるアルコール法、干し柿法、湯抜き法、炭酸ガス法などがあるとされている。

渋柿は、真っ先に見舞われる強い渋みによって隠されているが、実は甘みが強く、甘柿よりも糖度が高いのだとか。う~む、渋柿は奥深いのである。

 

日本人の心に染みる 柿のある風景

柿の歴史は古く、縄文時代以前から食用にしていたといわれ、奈良時代から栽培されていたという。同時代の『大日本古文書』(758年/天平宝字2)に、「干柿十貫」とあり、この頃から渋柿を干して食べていたのだ。すでにこんな昔に 渋柿を干すと甘くなるとわかっていた先人の知恵にはほとほと感心してしまう。

家の軒先に吊るされた干柿もそうだが、山林や農家の庭先につややかに実る柿の姿は、ほかの果物には無い懐かしさを感じさせる。それはきっと古くから栽培され、晩秋から冬の日本の風景に溶け込んでいるからだろう。

また この時季、収穫された柿の木にぽつんと一つ、実が残っていることがある。これは、「木守り(きまもり)」といって、翌年の豊作を願って、木に柿を一つ二つ取り残しておく風習で、冬の季語でもある。

 

現在、増えすぎた熊の被害を防ぐために、収穫しない(あるいはできない)柿の木は伐採することが推奨され、日本ならではの情緒や郷愁が奪われようとしている。

猟師の私は、毎日流れる熊害(ゆうがい)事件のニュースに心穏やかではいられない。

歳時記×食文化研究所

代表 北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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