昨年の晩秋、猟期(11月15日から)に入ってからというもの、毎日の罠猟(有害鳥獣捕獲)に加えて、週末になると早朝から夜まで兵庫県の北部へ猟に行ったりと、忙しく猟師道に邁進していたら、早や2月も半ばを過ぎていて、月日の経過のあまりの早さに驚いている。
猟期に入ると別人になったがごとく
『歴メシを愉しむ』の前回配信が昨年の11月5日だったのは、自分でもちょっと驚いたが、その10日後が猟期スタートだったので、頷けた。
猟期に入ってからの自分は、脳のほぼ100%、行動の70~80%が猟師になっていたことがわかる。行動の数字が脳よりも低めなのは、日々の家事など一般生活の中での行動分を差し引いているからだ。昔から私は、素晴らしい本や興味事項など何事かに夢中になると、一心不乱、のめり込んでしまう。
最強の猟師鍋は延々と
先日は毎年恒例の丹波篠山へ猟師仲間と泊まり猟に出かけて来た。
宿泊先は地元の人の別荘を4人で1棟借りし、食事はそれぞれが持ち寄った食材を自分たちで調理するスタイル。これがまた、何日も前から心待ちにするほど、楽しくて、美味しくて、たまらないのである。
その夜のご馳走は、名付けて「山肉すき焼き」。メンバーの一人が北海道の友人が仕留めて送ってもらったというヒグマ肉に、自分たちで獲った猪と鹿のロースやモモ肉という、いかにも猟師らしい肉のラインナップ。ここへメンバーの畑で栽培した地元野菜の岩津ねぎや白菜に米、さらには飼育している軍鶏と烏骨鶏の卵という豪華さである。
まずはヒグマ肉からジュウジュウと焼きはじめる。ツキノワグマは、しゃぶしゃぶや焼き肉で食べたことがあるが、ヒグマを食べるのは初めてであった。
長い狩猟文化の伝承では、熊は大自然の象徴であり、人に糧を授ける山の神として崇められてきたという。
濃い赤色で点々と脂肪が入ったその肉は、薄切りにされているので硬くはなく、いい歯ごたえがあり、甘みがある。いくらでも食べられてしまうほど美味であった。人を襲うニュースを観て、怖がっていたヒグマだが、こんなに美味しい肉なのかと感動してしまった。
次にコクのある脂と旨みのある猪肉、あっさりとして軟らかい赤身の鹿肉と食べ進み、合間にはシャキシャキの新鮮野菜、甘みのある軍鶏と烏骨鶏の生卵は一個、二個、三個と殻が増えていき、さあ新しい卵を割ったといっては、また肉だ、野菜だ、と永遠に繰り返される。
肉と比例して量が増えるお酒も、ビールに日本酒、焼酎、赤ワインなどどっさりと仕込んであるので心配はいらない。
薪ストーブと山肉すき焼きですっかり温まった部屋から窓の外を見れば、庭には黄昏時から降り始めた雪がこんもりと積もっている。私たちが寝静まった頃に、鹿がやって来るに違いない。
そして翌朝…
宴の際、誰もが翌日の早朝猟のことなど忘れているのも、この会の恒例である。
ある者は二日酔いで、ある者は食べ過ぎに苦しみ、そして全員が寝不足で、朝を迎えるのである。
まあまあお酒に強い私は、寝不足ながらも、岩津ねぎを刻み、卵を溶き、昨夜残った山肉すき焼き鍋に投入して、「朝ごはん、山肉すき焼き丼にする~?」と声を掛けると、「うわっ、美味そう~!」と言いながら、皆がテーブルに集まって来て、パクパクと食べ始めるから不思議だ。(笑)
さすが、三種の山肉のすき焼き、最強の猟師鍋である。
歳時記×食文化研究所
代表 北野智子
文庫版サイズ(厚さ1.2×横10.5×縦14.8cm)
304頁
定価:本体1,800円+税
発行:株式会社IDP出版
ISBN978-4-905130-43-7
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