立春を過ぎたというのに、極寒の日々、身体の防衛本能が 寒さを防ぐために脂肪をまとおうとしているようで、いつもよりさらに食欲が増している。という言い訳はさておき、この頃、よくかやくご飯を炊いては ほくそ笑んでいる。
幼い頃からかやくご飯が大好きな私だが、どうやらこれは大阪人全般に言えることのようだ。特に寒い冬、粕汁とセットで食べるのはどうにもこたえられない旨さなのだ。
かやくご飯は大阪名物
「かやくご飯」は、古くは「加薬飯(かやくめし)」と呼び、「加役飯」「船場かやく」ともいったようだ。この「加薬」と「加役」、漢方では、主要な薬に対して補助的な薬を「加薬」といい、料理では、主材料に加える補助的な材料を「加役」というのだとか。
かやくご飯の場合、主材料はお米で、そこへ入れる具材や調味料が加役となる。具材をたくさん入れるとごはんが増えて、おかずと兼用できるので、昔から、「かやくご飯に おかずはいらん」といわれてきた。手間も簡単な上に、経済的にも優秀な一品で、合理性を好む大阪人の生活が生み出した料理なのだ。
かやくご飯の具材は、かしわ(鶏肉)、薄揚げ、こんにゃく、椎茸、人参、ごぼうなどを細かめに切り、鰹と昆布の出汁に醤油とみりんを加えて、米と一緒に炊き上げる。薄味に調味することが肝要である。そうすると、一緒に炊き込んだ加役たちそれぞれの味が楽しめるし、飽きがこないので、何杯でもいけてしまう。さらに米と具を一緒に炊き込むので、具の味がご飯に染み込み、冷めても美味しいのが嬉しい。
冬のかやくご飯と粕汁の相性は病みつきに
大阪では、かやくご飯のお相手は粕汁と決まっている。かやくご飯は、年中たべるものだが、なんといっても冬場に粕汁と一緒に食べるのが最高に旨いと断言できる。
大阪の道頓堀に、明治時代創業の大黒という、かやくご飯が名物の店がある。この店は、私の大好きな時代小説家・池波正太郎も愛した店。食についての名文に酔う、大愛読書である『散歩のとき何か食べたくなって』『むかしの味』(共に新潮文庫)に、大黒のかやくごはんと粕汁を愉しんだ情景が登場したのを読んだ時、小躍りしたものだ。というのも、私もこの店の大ファンであるからだ。
氏は、『散歩のとき何かたべたくなって』でこう記している。「名物の〔かやく飯〕に、熱々の粕汁か味噌汁。それに焼魚をとって食べるそのうまさは、旅に出ていることだからというのではなく、どこの家庭の日常にも食膳に出されるような変哲もないものが、これほどにうまいのは、やはり大阪の、知る人ぞ知る食べ物屋だからだ。」
氏は、「粕汁か味噌汁」と記しているが、やはり冬場はなんといっても粕汁をお勧めしたい。
たっぷりの加役を入れて大量に炊き上げたかやくご飯に、大鍋にどっさり仕込んだ粕汁…ああ、これで3日間は口福に浸れるというものだ。
歳時記×食文化研究所
北野 智子
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