【歴メシを愉しむ(125)】猪とのタケノコ争奪戦 ―猟師日記

カテゴリー:食情報 投稿日:2022.06.07

今年の4月から5月にかけて、人生で これほど大量に食べたことがない!というほどタケノコを食べた。しかもほぼ毎日。その量たるや、頭のてっぺんからタケノコが生えてくるのではないかというほどであった。

 

タケノコは猪の大好物

猟師もしている私、実は、この4月から有害鳥獣捕獲班 罠猟(わなりょう)の一員となった。有害鳥獣捕獲の資格を得ると、4月1日以降は猟期外でも罠猟を行うことができる。(兵庫県の猪・鹿の猟期は11月15日~3月15日)

ゆえに、4月から自分が有害鳥獣捕獲を担当する広大な農園で、せっせと猪の罠猟に精を出している。

4月から5月は、猪たちの大好物、タケノコの旬を迎える時季。彼らは薄暮の時刻から夜の間に活動をはじめ、竹林に侵入し、土を掘り倒してタケノコを食べるのだ。

猪が食い荒らした後の竹林の地面たるや、どこかの惑星に降り立ったかのような、一面クレーター状になっている。猪の鼻の力、恐るべしである。

 

竹林の中で猪と化す

この農園には数か所の質の良い竹林があり、毎年穫れるタケノコの美味しさが評判である。そこで、猪たちに食べられる前に、我々猟師が出動し、猪を一網打尽にするのだ…と、言うのは簡単だが、これがまた難しい。

平坦な竹林の中は、猪が闊歩する道(通い)があちこちにあり、罠を仕掛ける場所を絞り込むのが困難である。そこで、自分が猪ならどこを通るのが歩きやすく、効率が良いか?と、猪の目線になってじっくりと考える。そうこうしていると、早朝の静謐な竹林の中、だんだん自分が猪になったような気持ちになってくるのが不思議である。

 

無限タケノコ料理

猪に化身した甲斐があったというワケでもないが、今年のタケノコは猪に食べられる数が例年よりも少なく、豊作であったという。農園では掘りたての大きなタケノコを毎日 園内の青空の下、子どもが行水できるようなサイズの鍋にドコドコと入れ、薪を燃やして茹でるのだ。

農園の方からは、「ご苦労さんでした。持って帰ってね」と、ほぼ毎日、お礼にと大量のタケノコを頂戴する。嬉しい限りである。

タケノコの刺身、若竹煮、焼きタケノコ、木の芽和え、土佐煮、天ぷら、田楽、タケノコごはん、タケノコ寿司、タケノコ清まし汁などの定番料理はもちろん、タケノコ串カツ、タケノコハンバーグ、タケノココロッケ、タケノコシウマイ、タケノコトマトソースパスタ、タケノコグラタン、タケノコおこわ、タケノコ焼きそば、タケノコ玉子丼などなど、タケノコ三昧。というわけで、人生初の無限タケノコの日々を送ることができた。

 

「タケノコ獅子」との相性が一番

一番多く食したのは、猟果である猪とタケノコを使った料理で、中でも猪とタケノコのすき焼きは最高であった。好物のタケノコを食べたこの時季の猪は、「タケノコ獅子」といって、最も美味しいという。まさにその通りで、猪の脂のコクと肉の旨みにタケノコの味わいは、どんな料理にしても美味。

ここで書いているタケノコは孟宗竹で、中国の江南から日本に渡来し、江戸中期の元文年間(1736~40)に、琉球から薩摩の嶋津家別邸・磯庭園に移植されたという。日本の風土は、孟宗竹の成育に適しており、京都を経て全国に広まっていったのだとか。嶋津藩のあった鹿児島には、「春羹」(しゅんかん/春筍、笋羹、春寒、薩摩しゅんかんとも)という料理があり、「筍の羹(あつもの)料理」という意味だという。「羹」とは、細く千切りにした材料を油炒めして煮込み、とろみを付ける調理法で、中国料理に多く見られる。鹿児島に伝わるものは、タケノコ、猪肉、野菜を煮込んだ料理で、正月の祝いなどに作られるという。最近では猪肉が少なくなり、黒豚が使われているらしい。

ふうむ、これが一番の美味!と、酒のアテに、ご飯にのせてと、何度も“イノタケすき焼き”に舌鼓を打っていたが、この「春羹」と近いものだったのだな。先人の舌に脱帽である。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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編集部
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