【歴メシを愉しむ(140)】わらびで笑う春の日々

カテゴリー:食情報 投稿日:2023.04.27

「山笑う」―春の山の様子を擬人化して「笑う」としたのは、誠に味わい深い表現である。四季ごとに山の擬人化言葉があり、夏は「山滴る(したたる)」、秋は「山粧う(よそおう)」、冬は「山眠る」となり、それぞれ季語となっている。中国北宋の山水画家・郭煕(かくき)が画論『臥遊録(がゆうろく)』に、「春山は笑っているよう、夏山は滴るよう、秋山は粧うよう、冬山は眠るようだ」と評したのがはじめだとか。

ふむ、まさしくその通りで、笑う山の美味なる恵みをいただき、私も毎日笑っている。

 

わらび無限状態の日々

3月半ばから今日まで、毎日わらびを食べている。そのうちに頭のてっぺんからわらびが生えてくるのではないかというぐらいに。その訳は、猪の罠を掛けて毎朝見回りをしている農園では、広大な山林のあちこちにわらびがニョキニョキと生え出てくるのだ。農園の方からは、「ほらほら、どんどん採っていってよ」と言われており、遠慮なくそうさせていただいている。

野に出たわらびの尖端は赤ちゃんの握りこぶしのようでなんともいえず微笑ましく、摘み採るのがためらわれるが、それもほんの一瞬のことで、ポキンポキンと摘み採っていく。あっという間に30本、50本と、楽し過ぎて笑いが止まらない。

万葉時代に蕨菜(わらびな)と呼ばれ古くから親しまれてきたわらびは、日本人が一番好きな山菜ともいわれている。

摘み採ったわらびは、持ち帰ったらすぐに重曹でアクを抜き、水にさらすこと。これはもう日課になっている。茹でわらびは、鰹節と醤油がけにしたり、甘酢と和えたり、厚揚げや薄揚げと煮たり、鶏肉と炒めたり、天ぷらにしたり、オリーブオイルとバターテイストでスパゲッティと絡めたり、ピッツァにのせたり…。わらび独特のほのかな苦みと香り、軽いヌメリ感と歯応えは、どんな風に料理しても美味しい。

 

わっぱが似合うわらびめし

その中でも一番はやはり、わらびごはんだろう。炊きたてもむろん美味だがさめても旨い。

このわらびごはん、お茶碗ではなく、わっぱに入れて食べるのが、気分である。私はこのわっぱという弁当箱を偏愛している。その中でも使い古された、大きなものに魅せられる。わっぱとは「輪っか」のことで、地方によっては面桶(めんつう)、めんぱともいわれ、木工芸の技法の中で曲げ物と呼ばれるもの。ひのきや杉など木目の通った木を割り裂いた薄板を使用する。これを熱湯で煮て柔らかくして延ばし、円形やだ円形に曲げて底板とつける技法である。秋田県大館(おおだて)地方の曲げわっぱが有名だ。

わらびごはんは、わっぱに入れると、「わらびめし」と呼ぶ方がいい。わっぱは、上品な白木の小さいサイズではなく、木こりや炭焼きなど山仕事をする人のように、濃い茶色で大きく、ごつごつして使い込まれたものが似合う。

猟師の私も山仕事といえば山仕事である。罠の見回りを終えたら、わっぱのフタを開け、ぎゅうぎゅうに詰め込まれたわらびめしをガッパガッパと頬張るのだ。ああ、なんという美味しさだろう。そこには春の息吹きと山菜独特の苦みと香りが詰まっている。

歳時記×食文化研究所

代表 北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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