この頃、物忘れが多い。先日もオリンピックで団体と個人で金メダルに輝いた男子の体操。解説者が言うE難度やD難度の技の名前を覚えたくて、録画を観直しながら、フムフム覚えた、と思えども、もう次の日には忘れているのだ。幼い頃に食べていた食物やそのシーンまで多々、鮮やかに覚えているというのに。暑さで頭がぼうっとしているからだろうか?
否、そういえば思い当たるフシがある。長く続く異常な酷暑のため、このところ冷やそうめんの出番が多い。飽きがこない美味しさなので、何かといえばツルツルと流しこんでいた。特に今夏は、「あるもの」をたっぷりと添えて…。
みょうがを食べ過ぎると…
「あるもの」の正体は、みょうがのこと。毎朝 猪の有害鳥獣捕獲のため罠の見回りへ行く広大な農園の方から、敷地内に自生している夏みょうがを度々いただいている。
木陰に青々と茂った葉の根元から、白い花をつけた夏みょうがは愛らしく、摘むのも楽しい。その姿から、花みょうが、みょうがの子とも呼ばれる。
この摘みたての香り高いみょうが、家に帰ったら早速洗ってシャクシャクと細切りにし、冷やそうめんに添えて、ほぼ1日おきに昼食に食べている。そのみょうがの量たるや、添えものの域を出て、そうめん6:みょうが4の割合である。明らかにみょうが食べすぎ状態が続いているので、物忘れが多いのではないか?と思ったのである。
というのも 昔から、「みょうがを食べると物忘れをする」という謂われがある。デジタル大辞泉で「みょうが」を調べると、3つ目の意味に、「おろかな人。みょうがをたくさん食べると物忘れするという俗説からいう。」とある。
自分の名前を忘れないようにとの想いを込めて
『たべもの語源辞典』(清水桂一編/東京堂出版)によると、「釈迦の弟子で愚鈍第一の周到槃特(しゅりはんどく)の塚から生えた草を鈍根草と名づけた。槃特は、自分の名前も覚えられないで、その名を書き付けた物を荷(にな)って歩いたというところから、名を荷う、名荷とは鈍根草のことだ、という。」とある。みょうがは、「茗荷」と記されることが多いが、「名荷」とも書く。古くは『魏志倭人伝』には「蘘荷(じょうか)」という文字でみょうがが出てくるという。平安時代の『延喜式』(927年)や『倭名類聚抄』(935年)には、同じ「蘘荷」で「めか」と読まれているという。
物忘れ、おおいに結構
それにしても古くから先人たちもみょうがを食していたことがわかる。その爽やかな芳香と独特の風味に魅せられていたのだろう。
さて、まだまだ夏みょうがの嬉しい日々は続く。冷やそうめんのほかにも冷奴や焼き厚揚げの薬味、酢の物、みょうが寿司、天ぷら、玉子とじ、吸い物などなど、夏の食欲を増進してくれる涼やかな香味と心地よい辛味を、物忘れ恐れず食べ尽くすぞ。
歳時記×食文化研究所
代表 北野智子