【歴メシを愉しむ(144)】ツルンツルンで冷やっこい 暑気払いの練りもの

カテゴリー:食情報 投稿日:2023.08.10

連日連夜のムシムシの暑さにさすがに参ってしまい、近頃は食欲も減退気味である。

こんな時は、朝昼晩、規則正しく、バランスのとれた食事を…などと思わない方が、ストレスが溜まらないし、精神的に楽であるので、好きなものを、好きな時間にサクサクッと食べることにしている。

 

おやつにも食べる練り物好き

というわけで、それは何かというと、練り物のたぐいである。

私は幼い頃から、かまぼこや練り天、ちくわ、カニカマなど練り物が好きで、ご飯のおかずにはもちろん、おやつとしてもよく食してきた。大人になってからは、ここへ酒の肴として練り物を楽しむことも追加された。

これは、私の実家が海産物を商っていたことも影響していると思う。おチビの頃の私、小腹が空いたら、店に行って、すぐに食べられるものをキョロキョロと探して、ひょいっと頂戴してくる。その多くが練り物類だったのだ。店には通常、焼きかまぼこ、刺身かまぼこの紅白、カニかま、鯛ちくわ、焼きちくわ、豆ちくわ、竹の子天(魚のすり身に大きく刻んだ竹の子がゴロゴロ入っている丸くて平たい天ぷらで、なぜか年中あった)、ごぼう天、平天などが陳列されていたのを覚えている。

実家を出てからも、いつも何かしらの練り物が冷蔵庫に入っており、それらが無いと、何となく落ち着かない。「おやつに食べるとは、変わってますね」とよく言われるが、元々洋菓子系のスイーツはそんなに食べる方ではないし、わらび餅やスナック菓子などのおやつを食べる感覚と同じで、「今日は煎餅はやめて、鯛ちくわにしよ」という感じである。一方で、同じ鯛ちくわを冷酒のアテに食べるのも、これまた好きなのである。

 

涼やかな練り物で暑気払い

大人になって解ったことだが、練り物は、地方によっては呼び名も違うし、種類も違う。大阪(および関西)にあるものが他府県にあるとは限らず、その逆もまた然り。

例えば、私が夏になると週イチぐらいで食べる好物の練り物に、「あんぺい」「魚そうめん」なるものがある。どちらも鱧好きな大阪と京都ならではの冷やし練り物で、夏の風物詩ともされている。

「あんぺい」は、旬の鱧をたっぷりと使って、丁寧に柔らかく練り上げたすり身を塩水で茹で上げたもの。よ~く冷やして、山葵醤油で食べると、それはそれは美味。

人の名前のような面白い名の由来は諸説あり、「はんぺん」の変形ではないかという説もある。思えば、この「はんぺん」も面白い名前である。

『たべもの起源事典』(岡田哲編/東京堂出版)によると、「はんぺん」の語源も諸説紛々としており、椀のフタで半月形に作ったから、駿河の徳川家康の料理人“半平”が創作したから、「ハモヘイ(海鱧餅)」が転訛したからなどの説があるとか。安土桃山期の『津田宗及日記』1575年(天正3)の条に、「かまほこのはんへん」とあり、はんぺんはこの頃に存在していたという。

ただ近年では、「あんぺい」は賞味期限が短いためか、スーパーなどではなかなかお目にかかれなくなり、かまぼこ専門店などに限られているらしいのが残念である。

 

他方、「魚そうめん」は、鱧のほか白身魚のすり身に、つなぎの卵白などを混ぜ合わせ、そうめん状の細長い形状にしたもの。白色のほかに、緑色とピンク色のものがあるので、そうめんというよりは、懐かしの冷や麦のような見た目である。

よく冷えた「魚そうめん」に、冷やした出汁をかけて食べると、一度に3パックほどは食べないと納得できないほどの美味しさである。

「夏場は練り物も そうめんのように作ったら、涼しい風情も味わえるだろう」と、昔の人は、このような知恵で酷暑の日々を凌いだのだと思うと、感服してしまう。

ツルンツルンと冷やっこい喉越しと旨みの詰まった味わいが、暑気払いに打ってつけの「あんぺい」と「魚そうめん」、さっそく冷酒で楽しむことにしよう。

歳時記×食文化研究所

代表 北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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