【歴メシを愉しむ(138)】この苦みが春 ふきのとうのピッツァ

カテゴリー:食情報 投稿日:2023.03.19

奈良東大寺の春迎えの神事「お水取り」も終わり、やっと春の訪れを感じて、うきうき心地の今日この頃である。

関西人は昔から、お水取りが終わるまで春は来ないと頑なに信じており、私もその一人である。いくら気象ニュースが春の到来と伝えていても、どんなにぽかぽかと暖かくなっても、「いい~や、私らは騙されへんよ」という感じが、面白い。

 

平安貴族になった気分で薬摘み

旧暦二十四節気の「啓蟄(けいちつ)」が過ぎ、地中で冬ごもりをしていた虫たちが、暖かさに誘われて土を啓(ひら)いて、地上へ這い出してくる頃。この時節、毎年楽しみにしているのが山菜だ。山菜も、これら冬ごもりの虫のごとく、陽気に誘われて地の中から萌え出てくる。

今年も 有害捕獲の猟師として、田畑に悪さをする猪の罠を仕掛けている農園からいただく山菜の数々が楽しみで仕方がない。先日もすでにふきのとうをたっぷりと摘ませてもらった。

土から顔を出したふきのとうは、ぱっと見つけられるものもあるが、事件現場で証拠を捜す刑事になったかのごとく、地面をジ~ッと凝視しないと見つけられない場合も多い。雑草の合間や倒れた枯草の下に、隠れるように出てくるので、油断ができない。

いつも思うことだが、山菜を摘むというのは、何故にこんなに楽しいのだろうか。

山菜摘みは、古くは、「薬狩り」とか「薬摘み」と呼ばれていた。平安時代の貴族は、春になると薬狩りと称して、山菜摘みに出かけるのが習わしだった。

春に萌え出る山菜は、カロチンやビタミンAやC、ミネラルなどが豊富に含まれており、冬の間に身体に溜まった毒素を排出したり、生命力を強める上で、とても効果があったのだという。さらに山菜には、薬効成分を含んだものが多く、まさに「薬摘み」といわれた由縁だろう。ふきのとうについては、『本草備要』(中国・清代の医書)に、「心肺をうるほし、五臓を益し、煩を除き、痰を消し、咳を治す」とあるという。

 

ふきのとうは姑(しゅうとめ)さん?

ふきは数少ない日本原産の植物で、早春に顔を出すふきのとうは花のつぼみ。雌雄異株で、雄の花は淡黄色、雌は白色だが、うろこ状の苞(ほう)に包まれているうちに、我々が食べてしまうため、花の色はめったに見ることはない。

ふきのとうには面白い異名があって、「しゅうとめ」とも呼ばれるという。俗に、「麦と姑は踏むが良い」といわれ、寒冷地では、ふきのとうが土を割る頃に踏みつけると、良いのが出るとされたらしい。この「しゅうとめ」の「め」は、「芽」の意味も含んでいるという。さらに、「しゅうとめ」は、ふきのとうが老いたものを指しているとされ、これは、食べると苦みがあるところから、姑は嫁に対して苦いものだという意味でこう呼んだという。ふむ、姑さんに不満がある方は、野に出て、ほんの少し土から頭を出したふきのとうを踏んでみるのも気分転換にいいかもしれない。(笑)

 

ふきのとうピッツァでワインが止まらず

摘んできたふきのとうは、ありがたく天ぷらや炊き込みご飯、ふきのとう味噌などでいただいたが、その翌週もたくさんのふきのとうが萌え出てきたので、今回はピッツァにしてみた。このふきのとう、意外にもイタリア料理に合うのである。チーズと一緒にピッツァにのせてもいけるし、粗みじんに切ってバジリコの代わりにパスタにしてもいける。独特の香りと苦みがEXVオリーブオイルの青い風味と相性が良く、クセになる一品に仕上がる。ふきのとうピッツァは、美味し過ぎて笑いと白ワインが止まらなかった。

さあこれから また楽しみな、たらの芽、わらび、つくし、よもぎ、ふき、せりなど春の山菜たちが、順を追ってニョキニョキと地中から姿を現わしてくれることだろう。

歳時記×食文化研究所

代表 北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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