
毎朝 見ない日は無い、天気予報の「危険!」というマーク。ああ、今日もまた…と絶望的な気持ちになる。猛々しくジリジリと焼けるような暑さは本当に「危険」そのもので、油断すると救急搬送されるやもしれぬ熱中症との闘いの日々である。
熱中症予防に摂取を推奨されているのは、スポーツドリンク、レモン水、塩あめ、塩レモンタブレット、塩バナナなどなど。風情とはおよそかけ離れたこれらの飲食物を摂らねば命に関わるかもしれないとまで言われるようになってしまった。
暑気払いとは
「暑気払い」とは、その字のごとく、「暑さを打ち払う」という意味で、そのための方法を講ずることをいう。「暑気」というように、暑さや体に滞る熱を取り除くだけでなく、弱った気力を回復させて元気になることも含まれる。
古くから日本では、「暑気払い」といって、飲んだり食べたりする習慣があった。また、旬の食材を食べることで体調を整えてきた。現代では、「暑気払いに一杯行こう!」などと、暑さにかこつけて夏の宴会を開く時の理由として広く使われている。
五感で涼しさを感じる先人の智恵
昔の人々は、暑い夏を涼しく過ごすいろいろな智恵を持っていた。吹く風をひんやり涼しく感じさせる打ち水、藺草(いぐさ)や竹の青々とした匂い、風鈴の音色、ガラス鉢でゆらゆら泳ぐ金魚、軒先につるす釣忍(つりしのぶ)など、五感で涼しさを感じる、日本ならではの風流な智恵である。
暑気払いに毎晩食べるもの
五感のうち食はどうだったのか。土用の鰻も暑気払いの食べものではあるが、毎日というわけにはいかない。それ以外に、昔の人々は暑気払いに日々どんなものを食べていたのだろうか。
先述した通り、先人たちは、旬の食材を食べることで体調を整えてきたことから、まず、一つ目は枝豆である。
私は枝豆に目が無く、枝豆が出回りだした頃から毎日晩酌のお供に食べているが、全く飽きない。茹でている時は熱いが、晩ご飯のアテと惣菜を作り終え、最初の一杯(たいがい冷酒)と枝豆の出合いの瞬間を思えば何てことはないのだ。
なみなみと冷酒を注いだぐい呑みに口をつけるや否や、枝豆を手に取り、ポロロンと莢(さや)から外れた豆粒が口中に転がり込んできた瞬間、青い香~塩味~ポクポク食感~甘味、の順でシアワセの味が広がる。そこでまたコピリと一杯。この時、大げさではなく、今日も灼熱地獄を生き延びたことに感謝するのだ。
枝豆売りは夏の風物詩
枝豆は大豆の若莢(わかさや)を未熟なうちに枝付きのまま収穫したもので、その名は「枝成り豆」からきたものだとか。タンパク質やビタミンC、B1が豊富で、アルコールから肝臓や腎臓を守ってくれるので、お酒のつまみには最適だ。
古く奈良時代から枝付きのまま茹でて酒肴などにしていたようで、鎌倉時代後期から南北朝時代の法隆寺寺内や近辺の出来事を書き継いだ『嘉元記』には、1351年と1354年に、法隆寺にて、酒肴として枝豆が出された記録がある。
時代は下って江戸時代、風俗誌『守貞謾稿』(1853年/嘉永6)には、「湯出菽(ゆでまめ)売り」として、枝豆売りが記されている。三都ともに夏の夜に枝豆売りの姿が見られたという。京坂では枝を除き、皮を取らないので鞘豆(さやまめ)、それを茹でて売るので、売り声は「湯出さや、湯出さや」、江戸では豆の枝を取らずに売るので、「枝豆や、枝豆や」といったという。
熱い茹で時間も不要、しかも晩酌タイムの夜に枝豆売りが来てくれるとは、なんとも羨ましい。タイムスリップをして令和7年灼熱の夏の夜にも来てほしいものだ。
歳時記×食文化研究所
代表 北野智子