あっという間に今年も師走の終盤を迎えた。
先月の15日からいよいよ猟期に入ったので、解禁日以降の毎週末は狩猟に出かけている。こうなると日々 頭の半分は猟のことで埋まってしまう私、街に出たら辺りはお正月ムード一色になっていた。
重箱におせちを詰める時のしきたり
さあ、お正月の準備を…となったところで、重箱の話である。
私は漆器全般が好きで、中でも特に重箱好きである。お正月には、私が生まれた時から実家で使われていた重箱に、京都の骨董屋や旅先で買った重箱を大事に使っている。
あらためて重箱とは、食べものを入れて、二重、三重に重ねて用いる蓋つきの容器のことで、正月のおせち料理、季節の行事料理などに用いる。おせち料理の組重は正式には四段や五段とされているようだが、最近では三段重が一般的で、一の重、二の重、三の重と呼び、それぞれに詰める料理には一応しきたりがある。
一の重にはおせちの代表格とされている祝い肴三種(関東は数の子、黒豆、ごまめ/関西は数の子、黒豆、たたきごぼう)や口取り肴(蒲鉾、伊達巻、きんとんなど)、二の重には海山の焼き物や紅白なますなど、三の重には旨煮で、煮しめなどが入る。
我が家では、私のおせち二大好物が数の子、棒鱈であるため、一の重は数の子が占めるスペースが広く、三の重の半分は棒鱈煮で埋まってしまう。それ以外のものを一の重の余ったスペースと二の重にうまく詰め込み、入りきらないものは別の重箱に詰めるのである。
重箱の歴史
重箱という容器はいつ生まれたのか?『たべもの起源事典』(岡田哲編/東京堂出版)によると、重箱ができるまでは、食べもの容器として、衝重(ついがさね/三方・四方の総称)、縁高(折敷の縁を高くしたもの)、食篭(じきろう/重ね型)、折箱、折櫃(をりうづ/ひのきの薄板を折り曲げて作った小箱)などが用いられたという。重箱は、折箱から進化したものらしく、安土桃山期の慶長年間(1596~1614)に出現したのだとか。
重箱の隅をつつくのはナゼ?
重箱に関する有名なことわざに、「重箱の隅(すみ)をつつく<あるいは、楊枝でほじくる>」がある。意味は、「非常に細かいことまで問題にして、口うるさく言うことのたとえ」。うむうむ、こういう人はたまにいらっしゃる。一方では、「重箱の隅は杓子(しゃくし)で払え」というものもあり、「ささいなことは細かく干渉したり詮索したりしないで大目にみるべきであるというたとえ」である。同じ重箱の隅についてのことわざだが、意味が正反対なのが面白い。
重箱が持つ力
文献によれば、元禄以降は用途が狭まり、正月のみに用いられるようになった重箱は、宝暦以後、三月のひな祭りが華麗を競うようになった頃から、再び脚光を浴びるようになり、花見遊山用の提重(提げ重箱)も流行るようになったという。めでたし、めでたし。
なにせ、重箱には力がある。それは、ひな祭りやお祝いの時に気張って作るばら寿司やお正月の煮しめではなく、普段使いのばら寿司や煮物でも、重箱に詰めるとなにやら品が良く華やかで、さらに美味しそうに見える。普段の食卓を華やかに、美味しそうに見せるには、この力を借りるのが得策である。
さて、今年の大みそか、重箱の力を大いに借りて、おせち作りと参りましょうか。
歳時記×食文化研究所
代表 北野智子
文庫版サイズ(厚さ1.6×横10.5×縦14.8cm)
464頁
定価:本体2,000円+税
発行:株式会社IDP出版
ISBN978-4-905130-46-8
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