日々 忙しく猟師(有害鳥獣捕獲)をしていると、いつの間にか季節が慌ただしく過ぎていて、早や11月となっていた。
かつて父母や人生の先輩たちがよく、「時間の過ぎるのがほんまに早くなった。1週間なんて一瞬で終わってしまうわ」などと語っていた。その時の私には全く実感がなく、「そうかなあ~?」などと思っていたが、今やしみじみと納得できてしまう。
嬉しい秋の実り
ついこの間まで、暑さに辟易(へきえき)しながら、早朝の猪罠見回りをしていたのだが、この頃では、朝まだ暗く、布団から出ると寒さがこたえる時節となり、出掛ける前に用意する水筒には、氷入りアイスコーヒーではなく、湯気の出るほど熱々のコーヒーを仕込むようになった。
有害鳥獣捕獲を担当している農園から、日々の見回りのお礼にいただく野菜や果実も、胡瓜、茄子、ゴーヤ、トマト、モロヘイヤから、冬瓜やかぼちゃ、栗、みかん、大根、さつまいもに変わってきた。
そしてそして、つい先日は大好物の野生のむかごをたくさんいただいたのだ。
息を殺してむかご獲り
むかごを収穫するのは、骨が折れる。蔓(つる)から摘み取る時、少しでも指に不要な振動(くしゃみ・せきを含む)を与えたら、ぽろぽろっと蔓からこぼれ落ちてしまう。地面に落ちたら最後、これを探して拾うのは難しい。なんせ、地面にはぼうぼうと雑草が生えているし、たくさんの落ち葉もあるからだ。ゆえにむかごは、息を殺してそ~っと摘み取るのが一番良い。しかし、難しいけれども、楽しい。昨年は、家から脚立を取り出し、車に載せて現地まで運んで、一心不乱にせっせともいだものだ。
苗字飯・むかごごはん
収穫したむかごは、さっと洗って、塩ひとつまみと米と炊き込む。これがまあ、美味しすぎて、あっという間に一人で2合ぐらいは食べてしまうから怖い。5~6ミリ粒のかわいいむかごは、独特の滋味深い香りに、ムチリとした粘り気、ポクポクした食感と甘みがあり、むかごごはんにすると、本当に美味しい。
白いごはんに茶色のむかごがちりばめられた むかごごはんは、視覚的にはかなり地味。時代劇に出てくる茶店で食べたら似合いそうな風情だなと思っていると、やはり江戸時代の人々は食べていたのである。
『図説 江戸料理事典』(松下幸子/柏書房)に、江戸時代の料理本から抜き出した「変わり飯一覧」なるものを見つけた。それによると、『料理いろは包丁』(1773年)の「糠子(ぬかご)飯」をはじめ、『名飯部類(めいはんぶるい)』(1802年)と『料理調法集』(1823年)に「零餘子(むかご)飯」とある。
「変わり飯」とは昔、普通の飯に対して、菜飯、鶏飯(けいはん)のように、具を加えて特に名の付いている飯を、「苗字飯・名字飯」と呼ばれたもののこと。
むかごごはんや栗めし、たこめしのことを「苗字飯」と呼ぶとは、なんと昔の人はユーモアのセンスがあるものだ。
さて 晩秋を迎え、いよいよ11月15日から猟期が始まる。これからは、「鴨めし」「猪めし」「鹿めし」など、肉系の苗字飯が我が家のテーブルに上がることだろう。
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