【歴メシを愉しむ(128)】「もどきの鰻」もまた楽し

カテゴリー:食情報 投稿日:2022.07.23

7月23日は土用の丑。日本列島で鰻を食する日である。

しかし異様に暑い今夏は、土用の丑の日だけでなく、何度でも鰻を食べたい。けれど、絶滅危惧種でもある鰻の価格高騰は、とても何度でも食べられるものではない。何とか夏の鰻渇望を満たすことはできないものか…。

 

「鰻もどき」で遊び心も味わう

近年、鰻の代わりにナマズやナスで代用した蒲焼や、魚のすり身で作った、見た目も食感もほぼ鰻の蒲焼に近い商品が市販されている。

これらは最近のものと思いがちであるが、実は「鰻もどき」という名で、精進料理の一品として先人たちは生み出していた。

「もどき」は「ようなもの」という意で、「もどき料理」というジャンルは、本物とは別の素材を使って、いかにもそれらしく見せた「見立ての料理」のことで、精進料理から生まれたとされている。

昔は、お寺の食事や法事の席には、肉や魚などの生臭モノは食べることができない。かといって、野菜や豆腐、海藻類だけでは味気なく、箸も進まない。そこで生まれたのが「もどき料理」で、寺の行事や法要の後に振る舞ったそうで、作り手の遊び心が混じった楽しい一品だったようだ。

「鰻もどき」は、鰻の皮に見立てた海苔の上に、鰻の身として 水切りしてすり鉢ですった豆腐と、すり下した山芋を混ぜたものをのせ、熱した鉄板で、醤油・味醂・酒で調味したタレを付けつつ焼いたもの。手間はかかるが、見た目がまるで鰻なので、結構おもしろい。

 

「もどき料理」 昔と今

「もどき料理」の代表例が、今でも食される「がんもどき」。漢字では「雁擬」と書き、豆腐を使って雁(がん)の肉に見立てたものだが、実はあまり似ていない。関西では、「がんもどき」とはいわず、「ひろうす」というが、元々は「飛龍頭(ひりょうず)」と呼ばれていた。これはポルトガル語の「ヒロス(filhos)」からきているという説と、水でこねた小麦粉に豆腐や野菜を加えて油で揚げた際、かたまりから衣が飛び出してそれが龍の頭のように思えたからともいわれている。こちらも龍の頭というには無理があるように思える。

他にも、狸の肉の代わりにこんにゃくを使った「狸汁」、あわびの代わりに大きな松茸を使った「精進あわび」などが有名である。現代でいえば、人気の大豆ミートのハンバーグや焼肉、カニカマなどのようなものである。

今ではお坊さんの食卓にも、法事の席でも、さまざまな魚介の刺身や寿司盛りなどが普通に出てくるようになって久しいので、手間をかけても「鰻もどき」を作って食べるのは、ヴィーガン(完全菜食主義者)の人たちだろうか。

そんなことを思いつつ、まずは、土用の丑には本物の鰻をしっかりと食べて、夏の元気をつけようと思う。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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編集部
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