6月半ばから、毎日 昼食と夕食にハチク(淡竹)を食べている。冷蔵庫のスペースを埋め尽くしているハチク量からすれば、朝食にも食べた方がいいのだが、私の胃が、朝はコーヒー&ヨーグルトと決めているのと、ハチク料理にはお酒が欠かせないからである。
いやはやタケノコに続いて、今度は頭のてっぺんからハチクが生えてきそうである。
ハチク知らずできたことが悔しい
有害鳥獣捕獲班の罠猟師として担当している広大な農園で4月~5月の間、猪とのタケノコ争奪戦を繰り広げてきたが、今度はハチク争奪戦の話である。
ハチクは、中国原産のマダケ属で、タケノコ(孟宗竹)の次に多く栽培されているらしいが、市場にはそんなに多く出回っていない。タケノコは地上に出る前に収穫されるが、ハチクは地上に出てから採るので、収穫方法は簡単である。ハチク林にニョキニョキと生えているハチクを、足先で根元を蹴ってボキンボキンと折っていく。手でも折れる。私も収穫を体験させてもらったが、折れる瞬間のボキンの感触がとても楽しかった。
タケノコに比べて地味で目立たぬ存在のハチク。しかし、これがまあ旨いのなんのって! 私は声を大にして、「ハチクは旨い!」と叫びたい。今までハチクの旨さを知らずに生きてきたことが、なんとも悔しい。
ハチクの旨さは、まずその素晴らしい歯応えにある。ひと噛みすれば、「ガゴリッ」と歯から歯茎、耳の奥へと伝わる快く響く振動音。さらに噛んでいくと、「ゴリン、ゴリン」と心地よい歯応えが続き、その頃には口中いっぱいにハチク味が広がるのだ。タケノコのようなえぐみはなく、繊維が緻密で、甘みと香ばしさがある。タケノコも美味しいが、私はハチクの方がより美味しいと思う。そのように言うと、猟の師匠たちは皆、口を揃えて、「そら、そうや!ハチクの方がずっと旨いわ」とのたまう。その顔には、「今ごろ知ったん?」と書いてある。悔しい。
今度はハチク三昧の日々
こんなに美味しいハチクを猪が狙わぬはずがない。ハチク林をチェックすると、やはりそこここで猪がハチクを掘ったり、折ったりした跡があった。今年の農園のハチクは晩生(おくて)だったのだが、猪はちゃっかりと、一部早めに出てきたハチクエリアを鼻で感知し、むさぼっていたのだ。
「ハチクの勢い」とはよく言ったもので、ハチクは土から頭を出すと、グングンと激しい勢いで一気に伸びていく。罠は掛けたものの、もうこうなったら、猪よりも先に収穫するしかないと、ハチクの勢いでドンドコと皆でハチクを折りまくり、採りまくった。というわけで、農園からいただいたハチクが冷蔵庫内を嬉しく埋め尽くしている。
タケノコ同様、様々な料理や炊き込みご飯にして毎日美味しく食べているが、一番のお気に入りがハチクの鰹節佃煮だ。短冊に切ったハチクを醤油、日本酒、砂糖、みりんでコトコトよく煮る。仕上げに、フライパンでから煎りした鰹節を手で揉み、バサッと振りかけ、さっと混ぜるだけで、ご飯とお酒が止まらぬ味わいとなる。日持ちする常備菜として、2リットル入りのタッパーがギチギチになるほど作ったが、たった3日でなくなってしまった。これまさに「ハチクの勢い」であった。
歳時記×食文化研究所
北野 智子