【歴メシを愉しむ(172)】毎日でもサンマ いまのうち

カテゴリー:食情報 投稿日:2025.10.18

待ち焦がれた秋、やっと訪れてくれたが、まだ完全に半袖の服は手放せないという今日この頃。

 

今年のサンマはむっちむち!

とはいうものの、秋を代表する食材は次々に登場してくれており、今日はその中から、大好物のサンマの話である。

「秋の魚」=「秋刀魚」と書くサンマ、ここ数年は不良続きで高級魚のようになっていたが、今年は豊漁らしく、例年になく大ぶりで、むっちりと太っており、脂ののりも抜群で、食べ応えがあるのが嬉しい。

その理由は、サンマ研究者の方々によると、ここ数年と比べて、サンマの餌となる動物プランクトンの発生量が多かったらしい。それにより太ったサンマの群れが漁場に来遊しているというのだ。

「それはいい話じゃないか!」と喜ぶのはまだ早い。この太った群れが漁場に来遊するのは10月半ば頃までで、それ以降は痩せて小ぶりなサンマの群れに取って代わるということだ。ゆえに、むっちりサンマを味わうならば、お早めにとのことであった。

 

9月からほぼサンマの毎日

このようなサンマ予報を知ってからは、「サンマめ、喜ばせておいて。ならば今のうちに…」と独り言をつぶやきながら、週に5日は食べている。調理法は丸のまま塩焼きの一辺倒。ごくたまにお造り、握り寿司も食べるが、食べ終わった後は、やっぱり塩焼きが美味いなぁと思ってしまう。

我ながらよく飽きないなと思うが、私は日本酒が大好きな吞み助で、焼いたサンマのハラワタと純米酒をクピクピやるのが至福のひと時なのだ。

 

大人が愛するハラワタの苦み

それにしても、サンマのハラワタの苦みと日本酒の馥郁とした旨甘みは、何故にこんなに合うのであろうか。

思えば人は、大人になるにつれ、苦みを愛するようになる。その苦味は四季ごとにあり、春は山菜やサザエの肝、夏はビール、アユのハラワタ、アワビの肝、ゴーヤ、秋は断然サンマのハラワタ、冬はこれといって思いつかないが菊菜だろうか。季節を問わないものであれば、コーヒーや濃茶、ビターチョコレートなどなど。

大人になると苦みを好むようになるのは、体の免疫力を上げるため、本能的に口にしたいと感じることが嗜好性に繋がっているらしい。ならばサンマを塩焼きにして、大いにハラワタを食べようではないか。

 

江戸時代から庶民が待ち焦がれた新秋の味

サンマの歴史は案外浅く、江戸時代になってからで、初物好きなど季節感をことのほか大事にした江戸の庶民文化が育てた味ともいわれている。

『江戸の暮らしと二十四節気』(土屋ゆふ/静山社)によると、秋刀魚は、江戸時代には下々(しもじも)の者が食べる下魚とされていたとあり、寛政(1789~1801)の頃から次第に食べるようになり、値が付くようになったと随筆『続飛鳥川』(江戸中・後期の風俗見聞集)に書かれているという。

「つきやむしゃむしゃ甘塩の九寸五分」という川柳があり、「つきや」は搗米屋(つきごめや/玄米を白米に精米する商売。臼を転がしながら杵を担いで町を流していた)のことで、「九寸五分」は短刀の長さのことだが、ここではサンマのこと。つまり肉体労働者のつきやが、むしゃむしゃと食べるようなものが秋刀魚であるという。

また、江戸時代には、「サンマが出ると按摩(あんま)が引込む」といわれ、体に良い新秋の味として庶民は待ち焦がれたという。

 

下魚、大いに結構。値が付くか付かないかのサンマを食べることができた江戸時代の庶民が羨ましい限りである。

さあ、勝負は10月いっぱい。痩せたサンマに取って代わる前に、せっせとサンマを食べよう。

歳時記×食文化研究所

代表 北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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