
今年の節分は2月2日。また行事食をたらふく食べねばならない日がやって来る。
などと、さも義務感で食べるかのように書いているが、実は私は、年間の歳時記の中でも特に節分の行事食が大好きなのだ。
具だくさんの恵方巻で危うくアゴが…
大阪の地では昔から、「恵方巻き」という太巻きを食べるのがお決まりである。
「恵方」とは、その年の福徳をもたらす歳徳神のいる方角で、今年は「西南西」。
節分の夜、「恵方」を向いて、大きな太巻きを切らずにそのまま1本、終始無言で丸かぶりをする。大阪人の私、20数年前までは、この風習は日本全国で行われているものと思っていた。
幼い頃から毎年、母が作ってくれた太巻きは具だくさんのため丸々と太っており、今にも海苔がはちきれんばかり。これを一本、アゴが外れるのではないかというぐらい大口を開けて、黙々と頬張っていた。大好物だったので、食べるのは苦ではなかったが、食べ終わるまでしゃべってはダメという風習が、おしゃべりおチビにとっては辛かったものだ。
いわし、日本酒、おぜんざい…
そのほか節分には、「やいかがし」と呼ばれるいわしの塩焼きも必須で、まずはこれを日本酒とやりながら、節分の夜は始まる。
「やいかがし」とは、「焼き嗅がし」の意味で、焼いたいわしの頭を柊(ひいらぎ)の枝に刺し、門口や軒先に挿しておく魔除けのこと。いわしを焼いた臭気が鬼の侵入を防ぎ、さらに柊の葉にある棘が鬼の目を刺すといわれている。
この日本酒、何も私が呑兵衛であるからではなく、意味がある。「恵方呑み」といわれ、節分の日に恵方を向いて日本酒を吞みながら願い事をする習慣もあるようだ。
ほかにも「厄除けぜんざい」という甘党系もあり、関西では、節分の日にぜんざいを振舞って厄除け祈願をする風習がある。古くからぜんざいに使われる小豆の赤い色が、邪鬼を祓う色とされているためという。
節分そばで新しい春迎え
もう一つは、「節分そば」。今では少なくなったようだが、かつては全国でも食べられていたそうな。
節分は立春の前日で、冬から春への節目(ふしめ)にあたる。昔から季節の節目、季節の隙間は邪気や悪霊が忍び込みやすく災いが生じやすい時とされ、心身を清める「物忌み」をして過ごす日でもあった。また、立春は春の始まりであり、古くは立春を正月としてきたので、その前日に「節分そば」を食べるという習慣は、清めのそばを食べて新しい年を迎えるという年越しそばと、同じような意味合いもあるのだろう。
大阪では古くから、節分に芸人さんたちが、「名を上げる」の語呂合わせで、「菜の花」と「おあげさん(油揚げ)」が入ったそばを縁起物として食べたことにあやかって、「節分出世そば」と称して食べる風習もある。
この節分そばはこれといった決まりはないようで、海老やとろろ昆布など縁起の良い具材を入れるのもよし、自分の好きな具材を入れるもよし。
つい先日 岡山の猟師仲間が、大事に育てている名古屋コーチンが大寒に産んだ卵を送ってきてくれて、栄養満点で縁起物とされている大寒卵をポコンとのせた「節分月見そば」にするのが、今から楽しみである…と、ここまで書いてきて、あやうく主役の節分豆を忘れるところであった。ああ、節分は本当に行事食が多いのである。
歳時記×食文化研究所
代表 北野智子
文庫版サイズ(厚さ1.6×横10.5×縦14.8cm)
464頁
定価:本体2,000円+税
発行:株式会社IDP出版
ISBN978-4-905130-46-8
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