糠床は、米糠を乳酸菌群などで発酵させたものです。
糠床には、台所という「おおらかに解放された空間」、いわゆる空中に浮遊しているいろんな菌が入ってきます。そのため優良な乳酸菌を育てるために様々なものを添加します。
まず、塩です。多くのレシピでは13%もの塩を入れます。このために、塩に強い乳酸菌などの微生物しか残りません。味噌でも9~11%の塩分ですので、かなり塩辛いことがわかります。
また、唐辛子を入れるレシピもあります。唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは、抗菌効果があるとされます。また近年の研究では、糠床に唐辛子を入れると他の菌の増殖が抑制され、主要乳酸菌であるラクトバシルス属という乳酸菌の割合が増えるとの報告もあります。
さらに、ビールをいれるという方法もあるようです。ビールに含まれているホップにも抗菌性が認められます。もともとビール創成期には、腐敗防止でホップを使ったともいわれます。
16世紀以降イギリスが支配したインドにビールを送るのに大量のホップを使ったビールを造ったといわれます。これは現在インディアンペールエールといわれ、独特な苦みが強いビールで伝えられます。
十分生育した糠床は毎日かき混ぜなくてもいい!
このように様々なものを加えて乳酸菌群を育てようとします。しかし、多くの乳酸菌は、空気が嫌いです(専門的には嫌気性菌という)。そのため、下の方の層に乳酸菌がたまってきてしまいます。
さらに、水分も重力によってしたに落ちてきます。そうすると塩分は水分と共に下部に来てしまい上の方は、塩分が少なくなり、カビが生えやすい状態になってしまうわけです。このような状態が続くことで、乳酸菌が十分に生育する前に、上部がカビてしまうことになります。
そこで、十分に乳酸菌が生育するようにかき回す必要があるわけです。しかし、一度乳酸菌が住みついてしまえば、乳酸菌の造る乳酸によってpH(ペーハー:水素イオン指数)が低下し、他の菌が生育しにくくなります。このようになれば、2~3日に一度の手入れでもよくなるわけです。
2~3日(最大1週間)小旅行など行く際には、冷蔵庫などに入れて休ませることもできます。世界一周で半年世話ができないという方にお勧めなのは、糠床の一部を冷凍保存してしまう方法です。
世界一周から戻ってきた際には、新しい糠と塩を加え、種菌として冷凍した糠床を戻してあげれば、また、同じ味が復活します。
金内誠(宮城大学教授)