醤油造りに欠かせない酵母とは
醤油は、和食のみならず、世界中の料理と相性が良い調味料で、いまでは世界100カ国以上で愛用されています。醤油の特徴は、グルタミン酸などアミノ酸による強いうま味と、魚の生臭みや肉の野獣味などを消すアルコールと美味しさを連想させるような醤油独特な香気を持ちます。
このような香気よい醤油を造るための重要な工程を表す言葉として「一麹(こうじ)、二櫂(かい)、三火入れ」という言葉があります。
醤油は、蒸した大豆と炒った小麦を混ぜあわせて、種麹を振りかけ「醤油麹」を造ります。この醤油麹に塩水を加えて、発酵・熟成させ、液体部分を搾(しぼ)って、火入れしたものが醤油となります。
醤油の原料は、醤油麹となって、その出来が品質を左右するのです。その醤油麹は、塩水で麹菌がつくった酵素によって大豆や小麦が分解され、アミノ酸や糖を生成します。これを発酵させて、乳酸菌による乳酸発酵や醤油酵母によるアルコール発酵とそれに伴う香気成分を造り出します。
ところが醤油は塩分が高く、ドロドロした「諸味」(もろみ)なのでお酒を発酵させるような通常の酵母では発酵できません。そこで特別な醤油酵母で発酵させるのです。醤油酵母は、「諸味」をよく櫂入れ(かいいれ/かきまわす:撹拌)して、空気に触れさせてあげることで、よく生育し、発酵するのです。
火入れの役割とは
醤油酵母は、生育すると香気をよく立たせるためのアルコールと独特の風味をもたらすカラメル様香りのHDMF(ヒドロキシメチルフラン)という香気物質などを生産します。
さらに発酵した醤油諸味を搾ったあとの液体を「生揚醤油(きあげしょうゆ)」といいますが、これを殺菌目的の70~80℃程度で加熱します。この加熱工程を「火入れ」といいます。火入れ工程では、微生物が死滅するだけでなく、コーヒー様香り(フランメタンチオール)や燻煙臭(ベンゼンメタンチオール)が造られます。そのために、発酵だけでなく、3番目に重要な火入れ工程によってより深みにある香気も生まれるのです
つまり、美味しい醤油をつくるためには、良い麹をつくって諸味に櫂入れをして空気にさらすことで、酵母が生育しアルコールと香気成分ができ、さらに最後の火入れ工程で、独特の香気生成がされるというわけです。
金内誠(宮城大学教授)