塩麹の利点
いまや塩麹は誰もが知る調味料になりました。その背景には、小泉武夫先生が科学的解説や伝統的役割を伝え続け、さらに大分県の糀屋さんである浅利妙峰さんが、塩麹の調理法や実践的な使用法を広めたことが大きく関係しています。
塩麹のメリットは、味噌などと異なり熟成期間が短いことです。
米麹は、蒸した米の上に、麹菌(学名Aspergillus oryzae:アスペルギルス・オリゼ)の胞子(科学的には分生子)を振りかけ、30~35℃程度に保温します。そうすると胞子が発芽し、菌糸を伸ばしていきます。この時に多くの酵素を生産します。酵素の種類は多く、デンプン分解酵素やタンパク質分解酵素、脂質分解酵素など。麹菌は酵素を外に放出するため、菌糸が死滅しても、蒸した米の中(つまり米麹)には残るというわけです。
肉は酵素で分解される
塩麹に肉を漬け込むと、多くの酵素が働きますが、その中でもタンパク質分解酵素が肉の繊維に作用します。繊維はタンパク質でできているので部分的に切断するのです。切断された繊維は細くなり、食感的に噛み切りやすく、柔らかくなるというわけです。
肉の柔らかさには、中の水分も関係しています。そのため柔らかいハムは、肉に調味液の水分を閉じ込めるようにしてつくられています。肉の多くは加熱して食べます。加熱すると肉のタンパク質は白く変質します。この時に肉中の水分を追い出し、凝集するために固くなるのです。塩麹の中では、米のデンプンは麹菌中のデンプン分解酵素の作用によってブドウ糖やマルトース(麦芽糖)に分解されます。ブドウ糖やマルトースを含む塩麹を肉に塗りつけると、糖類の作用により、中の水分が保持され、さらにこの糖類が肉の筋肉繊維に入り込んで、その凝集を阻害(そがい)する働きもあります。
このように塩麹には、肉の繊維を切断し、さらに水分を保持してくれる2つの作用があり、柔らかくなるのです。
金内誠(宮城大学教授)