【今さら聞けない発酵の疑問(11)】ビールと発泡酒と第3のビールは何が違う?

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.10.08

「麦芽」の使用率で決められている

最近のビール系の表記には、「ビール」「発泡酒」「その他醸造酒(発酵性)」「リキュール」「ノンアルコールビール」があります。これら表記の線引きの根拠は何なんでしょう。

「ノンアルコールビール」は、「お酒」の表示がないので区別がつきます。「ビール」、「発泡酒」「その他醸造酒(発泡性)」「リキュール(発泡性)」の違いは、酒税法によって原料の大麦麦芽の使用割合で定められているのです。

本来の「ビール」は、大麦を発芽させた麦芽(ばくが)に水を加え、デンプンを分解(糖化)させ、甘くなった麦汁に、苦みをつけるためにホップを加えます。これを発酵させたものがビールです。本来のビールは、「麦芽、ホップ、酵母、水」のみから造られるもので、本場ドイツでは、1500年代に「ビール純粋令」が出され、この製法が定められました。

「ビール」は長年、高い人気を保っている不動の存在で、1990年代までその「ビール」に重い税を課していました。ところが、あるメーカーが「麦芽比率を下げる」ことで、税金が安くなる「ビール風アルコール飲料」を造りました。麦芽の割合を下げ、大麦、米、糖類などの割合を増やしたのです。これにより税法上の「ビール」のカテゴリーに入らない「ビール風アルコール飲料」の「発泡酒」が誕生しました。

 

4つのカテゴリーに落ち着いた

現在のカテゴリーでは、以下のとおりに分けられています。

 

▼ビール:一般に、麦芽使用比率が高いもので、以下のいずれかです。

(1)麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたものです(麦芽の使用割合100%、オールモルトと呼ばれます)。

(2)麦芽、ホップ、水及び麦のほか、米や果実、香味料等の副原料を使用して発酵させたもので、麦芽の使用割合が50%以上のものです。

 

▼発泡酒:麦芽又は麦を原料の一部とした発泡性のあるアルコール飲料です。一般に、麦芽使用比率が低いもので、以下のいずれかです。

(1)麦芽の使用割合が25~50%未満のもの

(2)ビールの製造に認められない原料を使用したもの

(3)麦芽の使用割合が25%未満で、発芽させない麦を原料の一部としたもの。

 

ところが、各メーカーとも「発泡酒」を販売し、この売り上げが上昇してくると、相対的に「ビール」の売り上げが下がってきました。そのため「ビール」からの税金収入が減ってきます。業を煮やした当局は、「発泡酒」の税金を上げることを決断。そこで、さらに税率の低い「ビール系飲料」として登場したのが「第三のビール」なのです。

これは、麦芽原料を使用せず、糖類とホップ、植物からのタンパク質や酵母エキスを原料とし、ホップなどで味をつけたもので、「第三のビール」、つまり、「その他醸造酒(発泡性)」に当たります。「第三のビール」の売れ行きが良くなると、この税率も上がってきました。  

メーカーと当局の知恵比べが始まります。日本の法律では、ある酒類と別の酒類をまぜ、2%以上のエキス(糖)を含んでいるものは「リキュール」というカテゴリーとなり、税金が安くなります。そこで、発酵酒に、甲類焼酎やスピリッツを加えたものを発売し、「第四のビール」つまり「リキュール(発酵性)」としたのです。各メーカーでは、「その他醸造酒(発酵性)」と「リキュール(発酵性)」を「新ジャンル」というカテゴリーで呼ぶこともあります。

日本の「ビール系飲料」類の覇権争いは、これら4つのカテゴリーに落ち着きました。今後は新ジャンルも廃止して、「発泡酒」に統合する動きもあります。さらにクラフトビールという勢力も台頭し、ビールをめぐるかけひきから目がはなせません。

金内誠(宮城大学教授)

 

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編集部
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