くさやと年貢の関係
くさやは…読んで字のごとく…、新島、八丈島、伊豆大島などを中心とした伊豆諸島でつくられる強い「臭い」と格別の「うま味」で知られる干物です。さばいたムロアジなどを、「くさや汁」につけた後、干物にしたもので食通の間にファンが多い名産品です。
「くさや」の誕生には、江戸時代の年貢が関与しています。
江戸時代、伊豆諸島は天領(幕府の直轄地)でした(罪人の流刑地でもありました)。八丈島では人口4700人余りの人口に150人の流人がいたとの記録もあります。
伊豆諸島は天候に恵まれないため、畑作や稲作は小規模で飢餓の島でした。そのため、自給自足を強いられていた流人たちは、飢餓により毒草を誤って食すことで死んだといわれています。
このように食糧調達が難しい島であっても海の幸には恵まれていました。ムロアジやカツオ、サバなどが獲れていたのです。また、海水からは塩を取ることができました。
このため米に代わる年貢として、塩がありました。さらに黄八丈(八丈島)という織物も年貢として納められていたといいます。
腸内の健康効果
年貢になる塩は貴重品です。勝手に使うことができません。そのためムロアジの干物を作る時の漬け汁(塩水)に困ることになります。そこで、干物用の漬け汁を使いまわすようになりました。漬け汁を使いまわすうちに、発酵して、独特な芳醇さを有する「くさや汁」が出来、「くさや」が完成したといわれています。
こんなに香りの強いくさや汁から食中毒細菌は検出されません。また、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの強い香気をもつ有機酸を含んでおり、これらが「くさや」の臭いの一部になっています。この酸は腸内を健康に保つ効果があります。無医村であった伊豆諸島では、おなかが痛くなると「くさや汁」を飲んだともいわれます。さらに、「くさや汁」には、グルタミン酸発酵で使われるコリネバクテリウム〔Corynebacterium〕属といわれる菌種の仲間、コリネバクテリウム クサヤ〔Corynebacterium kusaya〕が存在し、これはうま味だけでなく、有害菌を殺す抗生物質まで生産すると報告されています。
島の人の知恵とものを無駄にしないという精神からすばらしい食材が誕生したのです。
金内誠(宮城大学教授)