2006(平成16)年に認定
日本の国花といえば桜、国鳥はキジ、国蝶はオオムラサキですね。実は国の菌というのが指定されているのです。
「麴菌は、古来わが国の醸造をはじめ、いろいろな食品に用いられており、わが国の豊かな食文化に貢献してきた。また、高峰譲吉博士が 110 余年前に消化剤タカジアスターゼを抽出・創製したのも麴菌からである。〈中略〉日本醸造学会は、われわれの先達が古来大切に育み、使ってきた 貴重な財産「麴菌」をわが国の「国菌」に認定する。平成18年10月12日 日本醸造学会」
黄麹と黒麹の違い
日本固有の麹菌は、黄麹菌類と黒麹菌類などに大別されます(中国や東南アジアはクモノスカビ)。黄麹菌類は、胞子が黄色~緑色をしていて、お酒や味噌、醤油などに使われます。黒麹菌類は、胞子が黒い色をしていて、沖縄の焼酎(泡盛)や九州の焼酎、黒酢に使われています。
麹菌の学名は、「Aspergillus oryzae(アスペルギルス・オリゼ)」。「oryzae(オリゼ)」は、コメの学名「Oryza」から名づけられました。もともと黄麹菌は、コメで生育しやすい性質を持っているためこの名前になったのでしょう(「Aspergillum」は、潅水棒〔聖水を散水する際に使う棒〕というキリスト教で使われる宗教具に形が似ていることから名づけられた)。
私たちの身近な生活で使われている麹菌は、黄麹菌類です。
酵母だけでは、デンプンを直接アルコール発酵させられません。そこで、コメを利用したのです。蒸したコメを神饌(しんせん)とし、そこに生育した酵母からお酒を造ったのでしょう。
全国に種麹屋さんは数軒
麹菌は、コメで生育することによって、デンプン分解酵素(アミラーゼ)を豊富に造ります。カビ(麹菌)が生育したものを「かむたち」「かびたち」といい、のちの「かうぢ(こうじ)」に転訛(てんか)したともいわれます。「かびたち」の技術がなかった時代には、「くちかみ」の酒が造られていたとされています。これはアニメ映画『君の名は。』でも物語のキーとなっています。麹のアミラーゼの代わりに人の唾液(だえき)のアミラーゼを作用させ、糖を作り出し、その糖を酵母がアルコール発酵させたのです。
麹菌が生育しやすいのは、コメだけではなく、温暖で湿気のある日本の気候も関係しています。室町時代には、木灰を用いた種麹(麹のため菌)の製造法も確立し、技術も飛躍的に進歩しました。現在でも全国に種麹を生産している種麹屋さんが数軒あり(京都、秋田、大分、愛知など)、全国の味噌、醤油、米麹、みりん、甘酒製造所へ種麹を届け、日本の食品産業を支えています。
沖縄由来の菌種
黒麹は、かつてはAspergillus awamori(アスペルギルス・アワモリ)という、沖縄焼酎の「泡盛」から名付けられ、製造にも使われていました。しかし、この菌はほかの菌種とは異なり、沖縄に由来する菌種ということで、Aspergillus luchuensis(アスペルギルス・リュキュエンシス)となりました。
これらの菌種はいずれも日本にしか存在しない菌種で、歴史的にも地政学的にも日本の国菌にふさわしいといえます。
金内誠(宮城大学教授)