そろそろ熱燗が恋しくなる季節。好みは大きく分かれるものの、日本酒のアテとして最適なものに「くさや」があります。しかし、いまでは店頭でもあまり見かけない。「最近くさやを食べた」、「家のキッチンでくさやを焼いた」、という人は少ないでしょう。
くさやは、茶褐色の粘り気のある液体で魚醤に近い風味をもつ「くさや液」に、アジやトビ魚などを漬けて干した魚の干物です。起源は、江戸時代の伊豆諸島と言われています。干物を作る際に必要な塩は当時、「塩年貢」が課されており貴重品だったため、同じ塩水を繰り返し使用していました。何度か使用した塩水に魚体の成分が蓄積し、さらに微生物が作用し塩水が発酵し、独特の風味とにおいを持つ「くさや液」が生まれたということです。
小泉センセイもくさやを評して「熟しきった妖艶なにおい、そして奥深い味わいには、一種の魔性が潜んでいて、私を容易にとりこにしてしまう」(『くさい食べもの大全』小泉武夫、東京堂出版)と書いており、「くさやが手に入った日は枕にして寝たいほどの溺愛ぶり」だそうです。
臭いや味もさることながら、栄養成分も強烈です。「くさや液」には原料の魚から流出したり、発酵菌が生産したりしたビタミン類や必須アミノ酸類が非常に豊富に含まれており、滋養成分のかたまりのようなもの。さらに天然の抗生物質も含まれており、昔はケガをするたびに患部に塗って、外科の治療薬としても使用されていました。
くさや“もどき”を自作してみよう!
手に入らなければなんとかしようと、自作に挑戦! もちろん、本物の「くさや液」は手に入りませんので、それに似た同じ魚醤の一種であるナンプラーで代用します。作り方は意外と簡単。本来はムロアジかトビウオなどで作りますが、手に入りやすい真アジを開いてナンプラーに30分〜2時間程度漬け(塩加減は漬ける時間でお好みに調整)、その後冬なら外で、気温が高い時には平ザルに広げて冷蔵庫の中で2~3日程度干し上げます。漬ける際には、ナンプラーは「くさや液」より塩分濃度が高く、あまり漬けすぎると塩辛くなってしまうので、ご注意ください。
体長20cmぐらいの新鮮なアジを用意
開いたアジをナンプラーに漬けこむ
漬け込み終了後、平ザルに広げて冷蔵庫で3日ほど干す
さあ、干し上がったくさや“もどき”を焼いて食してみましょう。焼いている間、あの独特のにおいはしません。ちょっと肩すかしを食った感じがしますが、近所迷惑を考えずに焼けるので気が楽ですね。焼き上がったら、ほくほくの柔らかい身の部分を口に入れてみます。すると、通常の干物と比べると身がふっくらとして段違いにうまみが強くておいしい!
くさやが恋しくなって手に入らない時の熱燗のアテの代用品としては合格点といえるかもしれません。