日本の酒税法では、「どぶろく」は、米と米麹と水を原料として発酵させただけで漉(こ)す工程を経ていないお酒で、「その他の醸造酒」に分類されます。
一方、にごり酒は、薄にごりの清酒で、ほとんどの場合、清酒に分類されるものです。日本の酒税法では、清酒は米麹と水を原料として、発酵させた後に濾したものと規定されています。
どぶろくは、平安時代以前から米で作る醪(もろみ)の混じった状態の濁酒のことを濁醪(だくらう)と呼んでいたのが訛(なま)って、今日の「どぶろく」になったと言われます。
菅原道真が九世紀の末に書いた『漁父詞』という詩の中には、「抱膝舟中醉濁醪」(膝を抱き舟の中に濁醪に酔ふ)という一節があります。この当時から、濁醪があったことがうかがえます。
明治時代には、酒税法が規定されることで、自己消費に伴う酒造を禁止しました。そのため「どぶろく」は、密造酒となってしまいました。自己消費のために造っていた「どぶろく」は違法になり、公然と名乗ることができません。そこで、「どぶ」や「白馬(しろうま)」、「溷六(どぶろく、またはずぶろく)」といった隠語で呼ばれるようになったのです。
ところで、明治期の酒税は、制定された明治11(1878)年に1円/180L(一石)でした。ところが、戦費獲得のために増税が繰り返され、明治27(1894)年の日清戦争時には7円、明治37(1904)年の日露戦争時17円と重要な財源となり、国税の3割に上ったこともあります。
昭和61(1986)年には、酒税法違反被告事件、通称「どぶろく裁判」が起こされ、最高裁まで争われました。最高裁の判決は、「製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰する」というものでした。
ところが近年、小泉政権下で構造改革特別区域の制度が設けられ、特別区内での「どぶろく」の製造と、飲食店や民宿等でその場で消費される場合に限って販売が許可されるようになりました。これらは通称「どぶろく特区」と呼ばれております。「どぶろく特区」などの酒税法の特例措置の認定を受けている件数は、全国で233件にも及ぶとされ、酒税法で禁じられた「どぶろく」が庶民の元へ戻ってきつつあります。
金内誠(宮城大学教授)
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