日本酒は、本来、米と米から造った米麹、そして水から作られます。つまり、米と水が原料なのに改めて「純米」とうたう必要があるのでしょうか? 実はこれには理由があります。
戦後日本は米不足で、「主食用の米」を確保するため、「清酒用の米」を節約する必要がありました。そのために生み出されたのが「三増酒」とよばれるものです。これは、清酒に醸造用アルコールを添加して、増醸する方法です。この時に、味が薄くなった分、水あめやグルタミン酸ナトリウム、酸味料などを加えて、味を調(ととの)えていました。味は甘く酸っぱく、香りも薄くなっていたのです。ところが、本物の味を求める消費者が多くなり、酒造メーカーでは、「吟味」して「醸造」したという意味の「吟醸酒」が登場することとなりました。
平成元年(1989年)に国税庁の告示により「特定名称酒」という清酒カテゴリーが登場しました。
「特定名称酒」には、吟醸酒や大吟醸、純米酒などがあります。
日本酒ブームのきっかけ
原料の米は、固い外皮に覆われ、その下に糊粉層があり、ここまではいわゆる「ぬか」です。これを取り除いたものが、普段食べているお米です。お米は「ぬか」に近い外側であればあるほど、油脂成分やアミノ酸が多く、栄養価は高いのです。ところが、酒造りに際に、酵母に栄養を与えすぎると、メロンやリンゴのような香気が出ません。
酵母の温度を下げて栄養価の低い状況で発酵させるとおいしいお酒ができるのです。そこで、国では、米を60%まで精米し、栄養のない状態にした米を原料にお酒を造ることで、香気が高くなったものを「吟醸酒」と定めました。また、米を50%以下まで精米し、栄養のほとんどない状態にした米を原料として、香気が高いお酒を「大吟醸酒」としたのです。
さらに、米だけで作ったものを「純米酒」「特別純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」と呼びます。増醸の目的ではなく、味を調えるために醸造用アルコールを加えたものを、それぞれ「本醸造酒」「特別本醸造」としました。
このように消費者にも、わかりやすいカテゴリーを設けることが日本酒のブームに火をつけたのかもしれません。
金内誠(宮城大学教授)