雑節の一つ、「社日」は、春分・秋分に最も近い戊(つちのえ)の日で、春の社日は春社、秋の社日は秋社ともいう。
この日は昔から、生まれた土地の神さま「産土神(うぶすながみ)」にお参りをする日とされていて、春の社日は、五穀豊穣を祈り、米、豆、麦、粟、黍などをお供えするそう。また社日は、「土の神」なので、神さまの頭を掘ってしまうことになるなどの言い伝えから、土いじりを休む日なのだとか。
春の社日にはお酒を飲もう
今年の春の社日は3月22日(金)。
この日にお酒を飲むと耳がよく聞こえるようになるという「治聾酒(じろうしゅ)」という習わしもある。なんと、お酒好きの私に嬉しい習わしではないか。この日はいそいそとお酒とアテの準備に取りかかろう。
お酒のチョイスは、生まれた土地の神さまにお参りをする日であることから、ここはやはり大阪の名酒であろう。池田の呉春、能勢の秋鹿、高槻の清鶴あたりか。名酒のお相手には、これまた大阪で好まれる春の酒肴、「鰆のきずし」で決まり。関西では、「さごし」「やなぎ」「さわら」と、成長するにつれて名前が変わる鰆は、出世魚として喜ばれ、食される。秋から春が旬とされているが、古くから、春の訪れを告げる魚とされる鰆の産地として有名な瀬戸内では、真子や白子も食べる文化があり、春に獲れる鰆が珍重されてきた。
ぬる燗のお酒をほろほろと口に含み、淡味の奥に潜む程よい脂が旨い鰆の味わいを楽しむ至福の春の宵。「飲み過ぎちゃう?」という友の声が、いつもより妙に耳に響くのは気のせいだろうか?
<鰆(さわら)のきずしの作り方>
●三枚におろした骨のない半身の鰆の両面に塩をふり、冷蔵庫に一晩置く。
●塩を水で洗い落として、水気を拭き、甘めの酢に2時間ほど漬け、薄く切って器に盛る。おろし生姜と醤油でいただく。
歳時記×食文化研究所
北野智子