日本酒と寒の時季の関係
これから「寒」を迎え、いっそう寒さが増してくるころには、日本酒造りが最盛期を迎えます。この「寒」の時期には、外気が寒いことから、酒の醪(もろみ)の温度コントロールがしやすく酒造りに適しています。
日本酒造りで重要な工程を示す「一麹、二もと、三造り」という言葉があります。
この言葉で一番大事なのは「麹(こうじ)」と製麹工程、次に「もと」と呼ばれる酒母、三番目は、醪の管理が重要というのです。
「もと」は、酒母のことで、元気な酵母を供給するための小さい醪で、「もと」が良くなければお酒に必要なアルコール発酵ができません。
一番大切な麹は、デンプンを糖化する糖化酵素を補給する酵素剤の役割を持ちます。使用する麹の量は原料米の3割にもなりませんが、この麹の酵素によって蒸米が少しずつ溶けて、糖化され、これを酵母が取り込んでアルコールになるわけです。そのために麹はとても重要なのです。
杜氏の役割が大きい理由
ところで、酵母は、その性質から、糖の量の半分量のアルコールしか生産しません。たとえば2%糖からは1%アルコールが生産されます。麹の糖化酵素によって生成される糖は、約1~2%弱の糖が生産され、これを酵母が取り込み約0.5~1%弱のアルコールが発酵生産されるのです。この時、アルコール発酵とともに香気成分が生成されるのです。このように糖化と発酵が同時に起きることを「並行複発酵」といいます。
この時の糖化酵素が弱かったり温度が高かったりすると、このバランスが崩れて美味しいお酒ができないのです。特に吟醸酒と呼ばれるお酒は、低温に醪を管理し、香り生産させながらアルコール発酵させます。
そのため一番重要な麹造りには、杜氏(とうじ)と呼ばれる酒造職人の総責任者がもっとも気を使う工程になります。3日間40時間にわたり、定期的に撹拌させながら、新鮮な外気を取り込み、二酸化炭素を追い出します。この時に麹が生育するときの生育熱をため込み、徐々に温度を上昇させていくのです。「寒」の時期は温度を制御しやすく、良い麹をつくるのに適しています。しかし、気は抜けないので、時には夜中の作業や不眠で、麹の生育を管理することも。麹菌は、35~40℃にかけてデンプン分解酵素がつくられるので、この温度帯になるようにコントロールしていくのです。
このように美味しいお酒を造るためには、「一麹、二もと、三造り」が必要なのです。
金内誠(宮城大学教授)