じつは麹の色は、麹菌が作る胞子(科学的には、分生子)の色の違いです。いずれの菌もコウジカビ(アスペルギルス:Aspergillus属)です。菌糸は、どれも白い色をしています(胞子を出ないようにした麹は、白色をしています)。
黄麹菌は、味噌や清酒で使われる麹です。学術的には、アスペルギルス・オリゼという名前の麹菌です。また、醤油製造で使われる醤油麹も近縁種アスペルギルス・ソーヤといい、黄麹菌の一種です。これらの麹菌は、種麹という種菌以外で胞子ができるまでは、白い菌糸だけが見えます。麹菌を専用の培地で育てると、黄色→黄緑色→深緑色→茶色に変化していきます。そのため若い胞子の色を見て黄麹菌と呼ばれたのでしょう。
黒麹は、白い菌糸に、黒い胞子を付けた麹菌で、アスペルギルス・リュウキュウエンシスという名前です。かつて沖縄(琉球)で分離されたので、リュウキュウエンシスと名付けられました。さらに食品用の黒麹菌は、かつてはアスペルギルス・アワモリという名前でした。黒麹菌は、昔から泡盛を使っていたことなどからつけられた名前なのでしょう。この麹菌は、蒸米(むしごめ・むしまい)で生育させる製麹(せいきく;麹を造る工程)中に、クエン酸を作ります。このために、泡盛の醪(もろみ)には大量のクエン酸が含まれます。クエン酸のおかげで、pHが低くなります。このため微生物の知識がとぼしかった時代、暖かい沖縄で泡盛ができたのでしょう。ちなみに沖縄の「もろみ酢」は、アルコールを蒸留して残った粕の液体から造られ、麹が作ったクエン酸が醪の中に残っており、爽やかな酸味をもっています。
白カビは、もともと黒麹の一種で、カワチ菌といわれていました。これは近代焼酎の父と呼ばれる河内源一郎博士によって発見、培養されました。黒麹菌と同じようにクエン酸を作ることから、鹿児島の焼酎で広く使われました。ところが黒麹菌は、麹を造ったときに黒くなるなど、醸造場では問題となりました。そこで河内源一郎博士は、黒色の色素が作れない変異株のカワチ菌を発見し、麹菌としました。これが白麹菌というわけです。現在では、九州を中心とした焼酎製造場で使われています。この白麹菌によって焼酎の品質が飛躍的に向上しました。
金内誠(宮城大学教授)