【歴メシを愉しむ(121)】寒の時季は粕汁の暖

カテゴリー:食情報 投稿日:2022.01.31

「さっむぅ~~~!」…毎朝、この言葉を叫びながら起床している。大寒を過ぎてから、さらに寒さが増し、寒いというより、もはや痛い。

こんな寒中の日々には、心身ともにホコホコにしてくれる美味が欲しいもの。そこで、我が家ではほぼ毎日、粕汁を楽しんでいる。

 

毎日の粕汁は冬場の楽しみ

関西の冬の定番、酒粕を使った汁物である粕汁は、大根、豚肉、こんにゃく、薄揚げ、人参と、メイン具材には、好みで塩鮭のアラか、鰤のアラを入れたものである。

私の粕汁は母親から教わったものであるし、個人的にも塩鮭のアラが好物なので、鮭アラ派である。そしてアラは大きくカットしたものがいい。

寒の時季には、美味しいものが目白押しで、寒鰤、寒鯖、寒鱈、寒卵、寒仕込み味噌に漬物、そして搾りたて新酒の酒粕である。

大阪では、昔から冬場には酒粕を使った粕汁を楽しんできた。

実家でもそうだったが、寒の入りともなれば1週間は楽しめるように、大鍋にどっさりと粕汁を作り、具材がなくなれば補填して、毎日朝な夕なにご飯と一緒に、お酒のアテにと食べている。冬の汁物で、これに勝るものは無い!と断言してもいいのだ。

 

日本列島全てで食べられていると思っていた

数年前まで、寒の入りとなっているこの時季には、日本の多くの人々が、この旨すぎる粕汁を啜って温まっていると思っていた。ところがそうではなかったことを知って、愕然としたことがある。

それはある年の冬、東京で開かれた句会に参加した時のこと。私以外の会員は全て東京生まれか、長年東京在住の方々。その中の一人が、「大阪に行った折、粕汁とご飯の定食メニューに行列ができていて、珍しいので自分もその列に加わった」という意の句を詠まれた。私は、「はて?」と思い、初めはこの句の意味がわからなかった。句評の際にわかったのであるが、なんと東京の人は粕汁を食べたことがないのだ!さらに、ご飯と粕汁を食べるという取り合わせに驚くという。そこには、「できれば私たちは遠慮したい」的な気持ちがこもっている。

その場で唯一の大阪人である私、大阪の冬の風物詩・粕汁の魅力を、とうとうと語ったのは言うまでもない。

考えてみれば、大阪は、室町時代から河内長野の僧坊酒・天野酒に始まり、戦国時代には富田酒(高槻)、やや後れて堺酒、平野酒、江戸時代になって池田酒、伊丹酒など、かつての天下の酒どころであった。酒があるところに酒粕があり、市中にも多くの酒粕が出回り、粕汁という郷土料理を生んだのだろう。酒どころに生まれたことを、ありがたく思う。
江戸には酒がなかったから、粕汁もなかったのか? 江戸の人にとっては本当にお気の毒なことである。
この誇るべき大阪の食文化を伝えていかねばと、今日もまたほくそ笑みながら、酒粕を大鍋に溶かし、酒肴としても、この粕汁を愉しんでいる。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

 

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この記事を書いた人

編集部
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