昨年の秋以降、1週間が1日のような早さで過ぎた。
母の入院・介護、それに関わる病院や役所などとの打合せや手配等々に奔走しつつ、かつ仕事もあって、さすがに心身共に疲労困憊、特に精神的にかなり参ってきていた。
その渦中でも猟師である私、11月15日から始まる猟期に向けての猟友会の安全射撃会への参加、狩猟登録の手続き、猟友会支部主催の狩猟前総会への出席等々があり、それらを滞りなく済ませることができたのは、ひとえに猟仲間の助けによるものであり、本当にありがたいと思っている。
仕留めた真鴨を山で焼く
長く患っている精神的疲労を回復するためには、大自然の下へ、猟に出掛ける以外に無い!と思い立ち、猟期に入ってすぐの週末、丹波地方へ鴨撃ちに連れて行ってもらった。山の空気に包まれるだけでもいいと思っていたのだが、なんと鴨猟では第一級とされる「青首」(真鴨のオス)を仕留めることができたのだ。嬉しかった。感激、感動した。
その日はポカポカ日和で、のんびりと友人猟師と池や堰堤(えんてい)を回り、午後2時頃に本日の猟を終了とし、遅い昼ごはんをと、猟場の山あいで、仕留めた鴨をさばいて炭火で焼いて食べた。その鴨のなんと美味しかったこと!
無論、鴨は家でも美味しいが、山で火を熾して食べると、こんなにも旨いのかと、感動しきりであった。
持参の食料をアウトドアで調理するキャンプとは違い、自分で仕留めた鴨を、その山でさばいて食べることは、まさに猟師ならではの醍醐味であろう。
かつて殿様がいた狩り場を想う
この豪快な猟師スタイルの食べ方は、「御狩場(おかりば)焼き」といわれ、日本には昔からあった。狩りに出かけた大名が、獲れた野鳥や猪の肉を、猟場で焼いて食べたことに由来するという。直火で焼いて、主に山椒や味噌を付けて食べたとか。豪快ながらも、山のジビエの繊細な味わいが楽しめるのだ。
御狩場焼きにすっかりハマッてしまった私、その次の週末にもまた、カルガモを仕留める幸運に恵まれ、猟仲間が仕留めた青首、真鴨のメス、コガモと、なんと同時に4種の野鳥の御狩場焼きとなった。4人で4種の野鳥を食べ比べるという、至福の時を味わうとができた。
しみじみと感じたことは、御狩場焼きとはただ美味というだけではない。凛とした気配の漂う自然への畏怖、山の命の恵みをいただくことへの感謝。精神的に参っていた自分が今ここにいることの幸福、猟仲間のありがたさなどが入り交じり、格別なひと時を味わえるのが、御狩場焼きなのだなと思った。
とはいうものの介護や仕事で忙しい身、そうそう猟に行けないので、猟の仲間や先輩からいただいたヒドリガモや猪、鹿の肉を、「御家焼き」と呼んで、この大名家っぽい名前も気に入って、美味しくいただいている。
歳時記×食文化研究所
北野 智子
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