【歴メシを愉しむ(42)】
終わらない冬じまい関東煮

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.02.24

早や立春も過ぎ、春の足音も聞こえる今日この頃、そろそろ我が家では、ラスト関東煮(かんとうだき)の時季を迎えている。ご存知の通り、「関東煮」は、「おでん」の大阪名だが、大阪ではこれを「カントウダキ」ではなく、「カントダキ」と、「ウ」を抜いて言う大阪読みとなる。

 

おでんの始まりは田楽豆腐から

「おでん」の発祥は、「田楽」。短冊形に切った豆腐を串に刺し味噌をつけて焼いた田楽は室町時代に生まれたという。「田楽」という名前は、平安期頃から行われた田植え神事に奏でる舞楽を「田楽」と呼び、田楽法師が鷺足といわれる一本足の竹馬のような棒にのって踊る姿が、豆腐に串を刺した形に似ていることからとか。また「おでん」は、「田楽」の女房詞「お田楽」から「楽」が取れたものといわれている。

江戸時代には町中や境内などで田楽売りが登場し、繁昌したそうな。天明2(1782)年に刊行された、百種の豆腐料理が載っているベストセラー本『豆腐百珍』のトップバッターも「木の芽田楽」であり、当時の人気の高さがうかがえる。

幕末になると、江戸で醤油味の煮込みおでんが生まれた。この東京風おでんが大阪に入ってくると、これまでのおでんと区別して、「関東煮」と呼ばれるようになったという。東京の煮込みおでんは、濃口醤油で黒ずんだ色に煮込まれており、大衆的な食べものであったが、大阪ではこれを昆布や鰹の出汁と薄口醤油で煮て、白くあっさり味に仕上げたのが関東煮で、客座敷へも進出して、「お座敷おでん」とも呼ばれるようになった。大正12年の関東大震災で、大阪のお座敷おでんが東京に逆輸入され普及していった。

 

大阪ならではの関東煮具材

おでんは具材に地域色が出る楽しい料理である。東京辺りではちくわぶ、筋(牛すじのことではなく、練りもの)、はんぺん、静岡の黒はんぺん、京都のひろうす(飛龍頭)、海老芋、四国のかまぼこ、福岡ほかの餃子巻きなどなど、ご当地ならではの具材があり、姫路ではおでんに辛子ではなく、しょうが醤油をかけるなど、独自の食文化があるのが面白い。

ここ大阪の関東煮の特徴的な具材といえば鯨のコロ、筋、さえずり、蛸、牛すじ、梅焼き、白天などだろう。牛すじは大阪だけではないが、昔から大阪の庶民に愛されてきた鯨は、冬のハリハリ鍋も有名だが、関東煮でも欠かせない人気の具材である。だが、高級食材となってしまった現在では なかなかお目にかかれなくなってしまったのは寂しいことだ。

蛸については、古くから兵庫や大阪が蛸の名産地であったことが大きいが、大阪人は無類の蛸好きであり、関東煮にも蛸は付きものだった。現存する日本一古い関東煮屋(=おでん屋)は大阪の名店「たこ梅」で、創業は弘化元(1844)年。この店の名物は、蛸の甘露煮。柔らかく、甘辛く炊いた蛸は、錫のぐい吞みで飲む燗酒が止まらなくなる味わいだ。

では、梅焼き、白天(白上天、きくらげ天とも呼ばれたりする)とは何か? 昔から大阪人がおやつ感覚で親しんできた梅焼きは、魚のすり身(鱧、グチなど)と卵を混ぜて梅形にして柔らかく焼き上げた、卵物といわれる厚焼きのような練りもの。大阪寿司や茶碗蒸し、うどんなどにも入れるが、特に家で作る関東煮には欠かせない一品だ(現代では若い世代の家では入れないかも)。関東煮が煮えている鍋に、可愛い梅焼きがちょこんと浮いているのを見るとなんとも微笑ましいのだ。

一方の白天は、大阪の天神祭の祭り魚・鱧を使ったすり身にきくらげを入れたもので、貝割菜とお汁(おつい/大阪弁)にして食される祭りの行事食でもある。

 

終わらないラスト関東煮

冬じまいの関東煮は、冬最中に作るものよりも、「これが最後」ということで気合いが入るためか、大好物の梅焼きに白天、いつもより多めの牛すじや蛸、さらには張り込んで、鯨のコロやさえずり、筋なども投入する。それら具材の美味しさはもちろんのこと、出汁もまたこの上なく美味となり、「あ~、おいし!」と、またまたいろんな具材をいそいそと買ってきては投入を繰り返し、いつまでもラストにならないのが、我が家の毎年の恒例である。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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編集部
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