カラスが使う柄杓ともいわれる半夏
7月2日は雑節の「半夏生(はんげしょう)」。夏至から数えて11日目で、旧暦の七十二候では、この日から6日までが「半夏生(はんげしょうず)」という候となる。
「半夏」という山野草が生え始める頃で、「夏の半ば」に咲くことから、「半夏」と呼ばれるようになったとか。半夏は、「烏柄杓(からすびしゃく)」という面白い名前も持っている。そのワケは、苞(ほう)の部分を柄杓に見立て、カラスが使うほど小さな柄杓であるということから。真っ黒で不気味なカラスが、小さな柄杓を使ってチマチマと水浴びなどをしているところを想像すると笑ってしまう。
半夏生は農作業の大切な節目とされていて、この時季は「半夏雨」という、大雨になることが多いので、この頃までに田植えを終えないと、「半夏半作」といって、収穫が減る(半分になる)といわれたとか。
半夏生のたこ
大阪(および関西)では昔からこの時期、たこを食べる風習がある。
「半夏蛸」ともいわれ、田植えを終えた後、植えた苗がたこの足のように地に根付くことを祈り、たこを肴に一杯飲み、お互いの労をねぎらった。
この習わしはとても理にかなっている。きつい農作業を終え、またこれからの厳しい夏を過ごすため、タウリン豊富なたこは元気をつけてくれるし、半夏生から夏に向けたこの時季の蛸は「麦藁蛸」と呼ばれ、美味しさが増すからだ。「麦藁蛸」の名は、麦が実る、麦秋と呼ばれる初夏に獲れる真だこのことで、皮が柔らかく最も美味しくなるといわれている。
田植えを終えた清々しい田んぼで、一仕事終えた心地よさの中、たこを食べ、酒を酌み交わす―この情景を思い浮かべただけで、たこ好き・酒好きの私はヨダレが出てしまう。
たこ好き大阪人の夏
半夏生の行事食に限らず、我々大阪人は本当にたこ好きだ。
それは、大阪がたこ焼きの聖地だからではなく、大阪湾の泉だこ、瀬戸内海の明石だこと呼ばれ、昔から美味しいたこが身近にあったことが大きな理由だろう。
中でも特に夏場はよく食べる。「麦藁蛸」の時季であることもそうだが、半夏生に続いて、夏祭りのご馳走としても欠かせないたこは、「天神蛸」と囃され、天神祭には鱧と共になくてはならないお祭りの行事食だからだ。
私は、実家が海産物を商っていたこともあり、幼い頃から半夏生にはたこを食べていたし、天神祭の時はもちろん、夏のお膳に週3~4回はたこが登場した。店で販売しているので、食べ放題とは言い過ぎだが、夏の大定番「たこの酢もみ」(=蛸と胡瓜の酢の物)をはじめ、「たこブツ酢味噌」、「活だこのお造り」「活だこしゃぶしゃぶ」「たこの有馬煮」「たこのバタ焼き」「たこの天ぷら」「たこの握り寿司」などなど。
一番好きだったのは、クニャクニャと動く活だこを、むんずと掴んだ父が丁寧に塩で揉み、美しい桜色に茹で上げる「茹でたて活だこ」。これは茹でたてをそのままの味で食べるのがとても美味だった。
毎度思うことだが、当時の私はそれを酒肴ではなく、ご飯のおかずとして食べていたのかと思うと、惜しくてたまらなくなる。(笑)
さて、明日2日は半夏生。一度は田んぼで豪快にたこを食べてみたいが、地球温暖化の現代では その前に熱中症で倒れるのが必至だろうから諦めて、たこと一緒にお気に入りの純米酒を買い込み、ムチムチ旨い半夏蛸を ぐい吞み片手にゆっくりと味わうつもりだ。
歳時記×食文化研究所
北野智子