【歴メシを愉しむ(97)】
今、行者の気分である。

カテゴリー:食情報 投稿日:2021.02.12

立春も過ぎたが、寒い。我々関西人は、「東大寺のお水取り(3月1日~14日)が終わらないと暖かくならない」と固く信じているので、春はまだまだ先だとわかってはいるものの、やはり一度、「立春」という言葉を目にしたことで脳に「春」の字がインプットされたからか、寒さに対する不満が募る。

 

猟師道とは修験道か

早や冬も終わりに近づき、猟期も終盤を迎えた(特定地域を除けば2月15日まで)。今季から新人猟師としてデビューしたが、いやはや猟師がこんなにも忙しい、とは思わなかった。

以前、鴨撃ち猟の話を書いたが、実は銃猟以外に罠猟も狩猟登録をしており、名罠師である大先輩の指導を仰ぎつつ、獅子(熟練猟師が言う猪のこと)を獲る罠を仕掛けることも始めていたのだ。

罠猟をする者には、毎日の見廻りが義務付けられている。ゆえに毎日、寒さ厳しい朝、必ず罠の見廻りに出かけている。

その出で立ちがまた大変だ。まず、泥だらけになってもOKの猟師ウェアと長靴を装着し、猟友会のキャップとベストを着用。獅子が罠に掛かっていた場合を想定した止め刺し用の猟ナイフ、担ぎ出し用の太いロープやシート。さらに獅子に罠が弾かれていた時や罠設置の修復等に使用する鋤、スコップ、土中の木や竹の根をカットする剪定バサミやミニのこぎり、作業用グローブに軍手。獅子をおびき出すための餌である米ぬか…それらをぎゅうぎゅうに詰め込んだ重たいリュックと、入りきらない分を入れたデカイ布袋を肩に担ぎ、まだ陽が登りきらない朝、現場へ向かう。こんな姿、ご近所に見られたら、不審がられるに違いない。

銃猟の方は、「巻狩り」というグループ猟をするチームに参加させてもらっているので、ほぼ毎週、土曜日が鴨撃ち、日曜日が大物猟(鹿・猪)という段取りである。早朝3時~4時には起床、車で2時間程走った兵庫県北部へ向かい、厳しい冷気の中、さらに雪が降っても、雨が降っても山に入り、自分の待ち場で何時間も独りじっと獣を待つ…寒い、辛い。もうほとんど修行である。日本古来の山岳信仰である修験道の行者とはこんな境地ではあるまいか。

 

猟師鍋ならぬ行者鍋で活力UP

では、それがイヤなのか?と問われると、そうではない。世界を覆う恐ろしい感染症とは程遠い地で、森閑とした山中に独り居ると、自然への畏れと感謝の気持ちが湧いてきて、それが何とも言えず心地いいのである。これも猟の大きな魅力の一つなのだろう。

実は私は、行者という存在に憧れている。というのも、飛鳥時代の呪術師として有名な「役行者(えんのぎょうじゃ)」の大ファンだからだ。修験道の開祖であり、前鬼・後鬼という鬼を弟子にしていたことも神秘的である。私の家から程近い六甲山東面にあたる甲山に建つ古刹・神呪寺(かんのうじ)には、役行者が、文武天皇の御代(697〜707年)にこの山を訪れ苦行したと伝わっており、毎日、罠の見廻りでこの周辺を歩く猟師となってからは、その存在を身近に感じ、行者にもなった気分でいるのだ。

というわけで最近、その昔、山中で厳しい修験道の修行をした山伏たちが活力の源として食していたと伝わる「行者鍋」にハマっている。この鍋の詳しい由来は不明だが、主役は猪肉だそうな。これまた猟師にはぴったりではないか!

猪肉とたっぷりのザク切り白菜を交互に並べ、上から焼酎を適当に振りかけてフタをして蒸し煮するだけ。猪が手に入らなければ豚バラ肉で、きのこ類や葱、人参などを入れても旨い。水も出汁も不要な超カンタン即席鍋、ぜひお試しを。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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