【歴メシを愉しむ(51)】
春土用の美味しい筍ごもり

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.04.22

世の中の大変さを、いっとき忘れさせてくれるポカポカ陽射しの春の時は、うららかに流れていく。そうだ、嘆いているばかりでは訪れてくれている季節の恵みを逃してしまう。これは食いしん坊にあるまじきことだと、今日もまた「今春の、お家で楽しむ美味しいシリーズ」に取りかかる私である。今回は嬉しい「筍ごもり」で楽しもう。

 

土用には土の中に神さまがいて…

4月も半ばを過ぎ、今は春土用の時期(今春は4月16日~5月4日の19日間)。土用は、五行思想に由来する雑節で、四立(しりゅう)と呼ばれる立春、立夏、立秋、立冬のそれぞれ直前のおよそ18日間のこと。五行説とは自然哲学の思想に基づいた考え方で、万物は木、火、金、水、土の五つの元素で成り立っているという。その五行に対応する季節が、春は木、夏は火、秋は金、冬は水となり、残った「土」は季節の変わり目の土用にあてられる。

昔から土用の間は土の気が盛んになるとして、井戸掘り、穴掘りほか土いじりをすると良くないといわれてきた。その理由は、土公神(どこうじん)という土の神さまがいて、土用の時期は土の中にいるとされているからという。土の中でゆったりとくつろいでいるところに、ごちゃごちゃ土をいじられると、「うるさぁ~い!」と神さまの機嫌が悪くなるそうだ。けれども約18日もの間、土いじりができないとなると生活や仕事に支障が出る。そこで用意されているのが、「土用の間日(まび)」。この間日には、土の神さまが天上界へ行って留守なので、土いじりをしても大丈夫と考えられているのだ。ちなみに今年の春土用の間日は4月20日、21日、24日、5月2日、3日だそう。

 

春土用には土の恵みの筍を

ずい分と人間に都合よくできたように思える間日だが、まぁこの際、土の神さまには許していただくとして、春土用の今、土の恵みを存分に受けた筍を楽しみたい。そもそも春から初夏へと移る季節の変わり目の土用は、体調を崩しやすい時期。こんな時には旬の食材が持つ、新鮮な力強さを心身に取り入れて、元気に新しい季節を迎えたいものだ。一旬(10日間)で竹になるほど成長が早いことから、「竹」カンムリに旬と書く「筍」は、ぐんぐんと力強く育ち、早く食べないとあれよあれよという間に竹になってしまう。

 

嬉し美味しの筍ごもり

春たけなわの今、出盛りの筍は孟宗竹。生の筍を買えるのはこの時季だけなので、丸ごと1本を茹でたら、あれこれ作って美味しい筍ごもりの日々を過ごそう。

 

<もちもち筍ごはんの作り方>

家で作る人気筍メニューといえば筍ごはん。江戸時代のご飯ものレシピ本・『名飯部類』(享和2年/1802)に、「淡竹筍めし」と書いて「たけのこめし」と読む一品が登場しており、その頃から人気のメニューだったようだ。この「淡竹(はちく)」は旧暦七十二候・5月15日~19日の「竹笋生(たけのこしょうず)」の頃から旬を迎える筍の種類である。

▼米一合ともち米一合をあわせてとぎ、淡口醤油少々で味を調えた一番出汁(または昆布出汁)、やや大きめに刻んだ筍(下茹で済み)たっぷりと細かく切ったうす揚げを入れて炊く。叩いて香りを出した木の芽をごはんにのせる。

 

<若竹煮>

日本料理の「相性」を味わう代表料理の一つが「若竹煮」。いずれも春が旬の筍とわかめを炊いた一品で、山と海の幸がなじみ合い、個々の持ち味にない別種の旨みを醸し出している。

▼厚めに輪切りにした茹でた筍をひたひたの水で煮はじめて、次いでわかめを入れ、淡口醤油だけの淡い調味で煮込み、火を止めて味をなじませておく。食べる直前に煮立たせて、木の芽をたっぷりあしらう。

 

<たけのこめばると筍の煮付け>

大阪人が好きな春の魚料理・「たけのこめばると筍の煮付け」。筍の出てくる頃に旬を迎える、あるいは体色が筍の皮に似ていることから名付けられた たけのこめばるは、煮付けるとほろほろと甘みのある身が絶品!

▼日本酒、みりん、醤油と水少々を沸き立たせ、たけのこめばると輪切りにした茹で筍を煮る。こちらも仕上がりに木の芽をあしらい、日本酒とゆるゆるどうぞ。

 

<筍の木の芽あえ和風パスタ>

こうして見てくると、筍と木の芽は常に一緒で相性抜群である。この親友同士を使った春を代表する料理が筍と木の芽味噌をあえた「木の芽あえ」。そこで現状況下で各家庭でよく購入されているパスタを使ったちょっと意外な一品もご提案しておこう。

 

【初めに:木の芽味噌を作る】

(1)鍋に白味噌(50g)、日本酒(大さじ1)、みりん(大さじ1弱)を入れ、焦がさないように弱火にかけ、もとの味噌の固さぐらいになったら火を止め、冷ましておく。

(2)「青寄せ」を作る。ほうれん草の葉の部分だけ(20gほど)を塩少々を入れた熱湯で茹で、水にさらして水気を切り、細かく刻んで裏ごしする。

( 3)木の芽(10gほど)と(1)、(2)をフードプロセッサー(あるいはすり鉢)で混ぜ合わせる。

※ここまで手間はかけられない場合は市販のものでもOK。

 

【仕上げ:パスタを作る】

(1)茹でた筍は一口サイズに切っておく。

(2)ペンネやリガトーニなどのショートパスタ150~180gを、塩を入れた熱湯でアルデンテに茹でる。茹で上がる1分ほど前に(1)を入れて一旦ザルにあげ、再び鍋に戻し、木の芽味噌を入れて混ぜ、塩味が足りなければ塩を振り、あえる。皿に盛り付け、EXVオリーブオイルをかけて召し上がれ。

※私は白ワインのアテとしてつまむのでショートパスタが好みだが、ロングパスタでもOK。

 

昔から、「春は逃げる」といわれ、この素晴らしい季節はただでさえ短く、直ぐに去って行ってしまう。こんなご時世だからこそ、存分に春の恵みを味わう筍ごもりを楽しみたいものだ。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

  •                    

\  この記事をSNSでシェアしよう!  /

この記事が気に入ったら
「いいね!」しよう!
小泉武夫 食マガジンの最新情報を毎日お届け

この記事を書いた人

編集部
「丸ごと小泉武夫 食 マガジン」は「食」に特化した情報サイトです。 発酵食を中心とした情報を発信していきます。

あわせて読みたい